旧態依然とした法曹界の中で、この世の春を謳歌した企業法務系の大手法律事務所ですが、私は、今後、経営難に陥る大手事務所が続出するのではないかと見ています。
日本を代表する大企業が、徐々に気づき始めてきたのです。
有名な大手法律事務所あるいはその出身者で占められるブティック事務所でなくても、同じクオリティーのリーガル・サービスを安く提供できる法律事務所がけっこうあるということを…。
というのは、私どものような若手中心の弁護士で占められているような”新興系法律事務所”であっても、年々、上場企業を中心に大企業のクライアントが増加しているからです。
今現在、うちは、約80社の企業クライアントがおりますが、そのほとんどが上場企業もしくは複数の顧問弁護士を抱える大手の非上場会社です。
では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
今までは、企業法務系の大手法律事務所が大企業のクライアントをほぼ独占してきました。
そして、そのブランド力を維持するために、優秀な弁護士を集めるという大儀の下、高額な年俸で新人弁護士を採用し、次から次へとアメリカのロースクールに留学させてきました。
一流のエリアの一流のビルにオフィスを構え、物的資源・人的資源の両面からそのブランド力を強化してきたんです。
当然、そうなれば、弁護士に依頼する時に企業が支払うフィーはバカ高くなります。
大企業は、そのような高額なフィーを、リスクヘッジのための必要コストと考えてきました。
そして、そのような大手事務所に対抗できないと考えてきた多くの法律事務所は、零細・中小企業の顧問獲得に専念し、ある意味、上手く棲み分けが成立してきていたのです。
しかし、大企業は、長年弁護士を活用してきた歴史から、弁護士に対する目は肥えています。
実際に使ってみると、大手法律事務所よりもパフォーマンスがいい、しかも安いとなれば、大手法律事務所に高額なフィーを払ってまでお願いする理由はなくなります。
実は、企業が依頼する多くの仕事は、大手法律事務所でなくてもできるのです。そのような仕事は、今後、大手法律事務所から一般の法律事務所へどんどんシフトしていくと思います。
それどころか、M&Aのような、大手の法律事務所でないと対応できないと信じられてきた分野はどうでしょうか?
実は、この分野も大手法律事務所でないとできないのかというと、大いに疑問です。
実際、数年前から、うちにM&A案件を何度も依頼してくれる上場企業がいくつもあります。
こうして、大企業も問題の本質に気づき始めてきたんです。
このような環境の下で、最近、大手法律事務所がこぞって足並みを揃えている戦略は、”アジア戦略”です。
中国や東南アジアの各国に、駐在事務所を設けて、海外に進出していく企業のニーズに応えようという戦略です。
中国は別としても、日系企業のアジア進出なんて、今に始まったことではないのに、なぜ今頃、アジア進出に一生懸命なのかというと、そうしないと大手法律事務所もやっていけないほど台所事情が厳しいからだと私は分析しています。
なぜなら、真に顧客のニーズであるならば、もっと前からやっておくべき戦略だからです。
したがって、今、大手の法律事務所では、おもしろい現象が起こっています。
アメリカに留学した若手弁護士が、東南アジアに赴任するんです。
ニューヨークに留学して、タイで仕事するみたいな…。
若手弁護士のモチベーション維持も難しくなっていくでしょうね。