今回は、第185回国会において提出され、現在衆議院で審議中の「会社法の一部を改正する法律案」(以下、この法案の可決・施行によって改正されることになる会社法のことを「新法」といいます。)について書こうと思います
(なお、現在「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」も合わせ審議中ですが、ここでは一旦措きます。)。
新法では、監査に関する機関の制度設計が数点改められ、キャッシュ・アウトのための新しい制度(「第四節の二 特別支配株主の株式等売渡請求」)が導入されるなどの変更があげられています。今回取り上げるのは、新法847条の3として設計されている「最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え」です。
これは、株式会社の発起人等(「発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(現行会社法423条1項)若しくは清算人」)に対する代表訴訟の原告適格を、現行の会社法で当該株式会社の株主と限定していたところを、最終完全親会社等の株主にも拡張するものです。最終完全親会社というのも、新法で新たに加えられた概念で、当該株式会社の完全親会社等であって、その完全親会社等がないものをいうとされています(新法847条の3第1項本文)。
現行の会社法では、完全子会社の取締役等の任務懈怠により、完全子会社ひいては完全親会社に損害が生じた場合、完全親会社の株主は、完全子会社に対する株主代表訴訟を提起しない完全親会社の任務懈怠について株主代表訴訟を提起することになりますが、これはあまりに迂遠です。また、仮にこのような形態での訴訟を提起するとしても、今度は訴訟の内容として、損害額の立証が特に困難な問題として立ち上がります。すなわち、完全親会社が完全子会社に対する代表訴訟を提起していた場合と、提起しない現在との損害額の差というのは、親会社→子会社の代表訴訟において親会社が勝訴する見込みなどが絡まるため、非常に立証が困難です。さらに、費用対効果を考えてあえて提訴しないと判断した完全親会社の経営判断の適否なども問題になります。
このため、完全親会社の株主が直接完全子会社に代表訴訟を提起できるようにしたのが新法847条の3「最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え」です。
もっとも、完全親会社の株主であれば完全子会社のどんな責任追及でもできるというわけではなく、その追及の対象は「特定責任」に限られます(「特定責任」とは、当該株式会社の発起人等の責任の原因となった事実が生じた日において最終完全親会社等及びその完全子会社等(みなし完全子会社等を含む。)における当該株式会社の株式の帳簿価額が当該最終完全親会社等の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超える場合における当該発起人等の責任をいいます。)。
また、結局親会社のほうに損害が生じていないとなれば、責任追及はできません。
新法の成立はまだ先ですし、今後も国会の審議で内容が変わる可能性もあります。しかし、新法は会社法の重要部分について制度を変更するものですので、今後も継続的にチェックしていく必要がありますね。