今日はインコタームズについてご説明したいと思います。

 国際的な物品の売買においては、売買契約の締結はもちろんですが、通常これに関連して、物品の運送のための運送契約、運送中の事故に備えた保険契約、売買代金の支払いのための銀行取引契約が必要となります。

 このような契約の内容等を取引の都度決めるには手間がかかります。そこで、国際売買取引においては、FOBやCIFなどといった略語を用いて、売買の目的物の引渡地はどこなのか、運送及び保険の手配を売主がするのか買主がするのかといった基本的な契約条件がワンセットで定められる慣習が成立しています。たとえば、FOB TOKYO JPY10,000といった記載は、代金1万円、売買目的物の引渡地は船積港である東京港、運送と保険の手配は買主がする等といったことを意味します。

 しかし、このような慣習による定型取引条件は国によって解釈が異なることもあり、しばしば紛争を引き起こしてきました。

 そこで、このような定型的な取引条件の統一的解釈を目的として、国際商業会議所(ICC)によって作成された貿易取引条件とその解釈に関する国際規則が、インコタームズ(International Commercial Termsの略)です。

 インコタームズの規則は、アルファベット3文字で表されます(たとえばFOB、FCAなど)。インコタームズは何年か毎に改訂されますが、最新のインコタームズ2010では、11の規則が存在し、取引条件毎に売主と買主の義務が定められています。当事者が、“インコタームズ2010のFOB”で取引しましょうと合意することによって、インコタームズ2010に定められた規則が適用され、解釈が統一されるということです。なお、インコタームズは、条約でも法でもないので、売買契約の当事者がこれを契約書に明示して援用することによって初めて契約の中に取り込まれ、当事者を拘束することになるということに注意が必要です。

 さて、ここでは、これらの規則の中から、海上輸送において適用されるもので代表的なFOB、CFR、CIFについて簡単に見ていきましょう。

 まず、FOB(Free on Boardの略)では、物品の引渡地は本船の上とされ、船積港で売主が売買の目的物を本船に船積みすることにより引渡義務は完了します。危険負担の移転の時期は物品が本船の船上に置かれた時点です(したがって、売主が船積港で売買目的物を船に積んだあとに、大地震等により目的物が滅失しても、売主の代金支払請求権は消滅しません)。運送契約を締結して運送人に運賃を支払うなどといった運送の手配は買主が行い、保険契約を締結して、保険料を支払う義務も買主が負います。FOBの後には、船積港が表記されます。東京が船積港ならFOB TOKYOとなります。

 次に、CFR(Cost and Freightの略)では、物品の引渡地及び危険の移転時期は本船上、保険の手配も買主がする点でFOBと同様ですが、運送の手配は売主が行う点で異なります。CFRの場合は、CFRの後に仕向港が続きます。ロンドンが仕向港ならCFR LONDONと記載されます。

 最後に、CIF(Cost、 Insurance and Freightの略)では、物品の引渡地及び危険の移転時期が本船上である点はFOBと同じですが、運送の手配及び保険の手配は売主が行う点で異なります。CIFの場合も後に仕向港が続きます。

 ところで、契約条件が何なのかは、売買価格の決定にも重要な影響を及ぼします。

 売主としては、 CIFであれば、運賃と保険料も負担する必要があるのに対して、FOBであればこれらを負担する必要がないから、通常はFOB価格の方が安くなります。

 仮に、価格が同じ場合、たとえば、東京・ロンドン間の取引で、FOB TOKYO JPY10,000とCIF LONDON JPY10,000であれば、通常は、前者の方が売主にとって利益が大きいということになります。