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 昨今の企業においては、従業員の作業にパソコンやインターネットが欠かせないものとなっているところ、従業員がパソコン等を私的に利用したり、あるいはパソコン内に非違行為の証拠が残っている場合等があることから、会社としては、従業員に問題があると考えた場合、当該従業員のパソコンの調査をしたいと考えるものです。

 ところが、会社が従業員に貸与しているものといっても、パソコンには相応のプライベートな情報も含まれ得るものであることから、何の根拠や理由もなくパソコンを調査することは、労働者の人格権、自由権及びプライバシー権の侵害といった違法な行為として会社の不法行為責任を問われかねないものです。

 そのため、判例上も、「企業秩序は企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なもの」としたうえで、「企業は、この企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ」るとし、「企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして」「事実関係の調査をすることができることは当然のことと言わなければならない」としながらも、労働者が当該調査に対し調査協力義務を負うのは「調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められ」る場合に限る、としています。

 一方で、上記理論は労働者にパソコン使用に関しプライバシー等が存在する場合を想定していることから、会社が貸与しているパソコンについて、「使用規定」等が存在し、かつ当該規定において、調査権等が定められている場合には、当該パソコンについては、調査が行われ得る前提のものとして、そもそもプライバシーが存在しないと考えられます。

 他方、上記のような「使用規定」が存在しない場合には、会社による調査が、企業の円滑な運営上必要かつ合理的であり、かつその方法、態様が相当なものであることが求められるとされており、そのように判断している裁判例も存在します。

 各種裁判例を見るに、非違行為を判断するためといった正当な目的があることに加え、メールや閲覧履歴等が私的なものと一見して判断できるものを除き、一括して閲覧することも調査としてはやむを得ないと判断しているものと思われます。また、事前に告知するかについては、事前に告知した場合にメールや履歴等を削除されてしまう等の可能性があるため、事前告知がないとしても直ちに違法になるとは言えないとされていると考えられます。

 そのため、「使用規定」等にパソコンの調査権の定めがない場合に、従業員に関して問題があるという疑義が生じた場合には、基本的には、私的なメール等であることが明白なものを除き、パソコン内のメールや閲覧履歴を調査することは正当なものであると考えられており、当該調査結果に基づき懲戒等を行うことも同様に正当なものと考えられていると思われます。

弁護士 中村 圭佑