相談内容
当社は、もともと、今は亡き兄貴と一緒に立ち上げ、浅草で細々とアラレやせんべいを作ってきた小さなお菓子屋だったんです。
ところが、最近、ゆるキャラ的な絵をおせんべいのパッケージに印刷して販売してみたら、大ヒットしたんです。売り上げもうなぎ上りですし、銀行もたくさんお金を貸してくれて、良いことばかり続いている状況です。
そこで、創業50周年をきっかけとして、我がアサクサ製菓株式会社も、3年後の株式公開を目指そうということになりました。
それで、早速、当社の仲本税理士に紹介してもらった証券会社の人やコンサルタントの方にお願いして、株式公開に向けた準備に取り掛かったは良いものの、いきなり蹴つまずいてしまいました。
というのも、なんと、当社の定款が見当たらないんです。もともと、先代だった兄貴自身、ちょっといい加減な人間で(そこが良いところでもあるんですけど)、会社の書類なんて全然整理していなかったものですから…。
これには、さすがに証券会社の人達も呆れてしまって、「こんな書類の管理もできないような会社じゃ、株式公開なんて絶対無理です。出直してきてください」なんて言われちゃう始末です。
確かに、会社の憲法っていわれるくらいの定款ですから、すごく大事なのは分かりますけど、なくしちゃったら最後、二度と株式公開できないというのでは、死んだ兄貴にも申し訳ないです。先生、何とかなりませんか!?
回答
1.重要性を増した『会社の憲法』
株式公開企業や資本金5億円以上の大企業ならまだしも、これまで、多くの中小企業にとってみれば、会社の定款の管理をしたり、内容の確認をしたりするといった必要性はそれほど高くなかったかもしれません。
しかし、平成17年に会社法が施行され、所定の手続を経て定款に定めることで利用できる新しい制度等が増えたこともあって、昨今、その重要性が再認識されています(これを「定款自治の拡大」ということがあります)。
例えば、株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)を経て「取締役会を設置しない」旨を定款に記載することで、それまで義務付けられていた取締役会を設置しなくても問題なくなりましたし、また、株主総会の特別決議を経て「役員の会社に対する損害賠償責任の範囲を、報酬の4倍以内とする」といった内容の責任制限規定を定款に記載することで、株主代表訴訟が提起された場合の役員の責任の範囲を限定することもできるようになりました。
2.紛失してしまったときの手続き
このような会社法上の便利な制度等を利用するためには、そもそも定款がなければ始まりません。しかし、中小企業の場合、さまざまな理由で(あるいは特に理由もなく)、定款自体を紛失してしまっているケースが少なくないと思われます。
定款を紛失した場合、まず、会社設立後5年以内であれば、法務局に会社の設立登記申請書類一式と定款の写しが保存されています(商業登記規則34条)ので、法務局で閲覧することができます。
次に、会社設立後20年以内であれば、会社設立時に定款認証手続きを行った公証役場に定款が保存されています(公証人法施行規則27条)ので、 当該公証役場で定款謄本の交付を受けることができます。
3.本件では
しかし、アサクサ製菓株式会社さんの場合、創業50周年ということですので、公証役場における定款の保管期間が既に経過してしまっています。会社設立後、20年以上が経過してしまっている場合は、先ほど説明した方法は使えませんが、方法が全くないわけではありません。
このような場合、法務局に行き、会社設立後に変更されたすべての登記内容も含めた登記簿謄本(登記事項証明書)を発行してもらった上で、設立時の株主総会議事録がある場合には、これらを参考に定款を復元する作業を行うことになります。
設立時の株主総会議事録すら存在しない場合には、登記事項証明書を参考に定款を復元し、株主総会の特別決議をもって、当該再製した定款の承認を受けるという形で、それを定款扱いするという方法を採ることになるでしょう。まずは、法務局に行って、登記簿謄本(登記事項証明書)を取得してみることにしましょう。
弁護士 細田大貴