多数の労働者を雇用し、企業組織を維持・運用していく上で重要なものの一つに、就業規則があります。就業規則の意義は、概ね、労働者の労働条件を統一的に設定し、また労働者の行動規範として、使用者が定める規則類というイメージでよいと思います。

 常時10人以上の労働者を使用する使用者には就業規則の作成が義務付けられており、それ以下の小規模会社においても不要のトラブル回避のため就業規則を作成しておいた方がよいと思われるので、就業規則につき知っておくことは損にならないといえます。

 就業規則の効力については、一般的に、内容が合理的であるならば労働者に対するルールとして機能すると解されています。就業規則の条項が、労働者からして過酷すぎるなどの不合理性を有していないかは、作成段階で注意する必要があります。

 なお、就業規則は、法令または労働協約に反することができません(労基法92条1項)。法改正の際は、就業規則の改訂が必要か注意する必要があります。また、団体交渉などの結果、労働組合と労働協約を締結することとなった場合は、就業規則と抵触することにならないか注意しなければならないでしょう。

 また、個別の労働契約は、就業規則を下回る部分が無効となります(労契法12条)。就業規則で勤務条件を定める場合は、変更が困難であるということを良く考え、後々負担とならないよう、今後の経営の見通しなどを考慮することも大事でしょう。

 就業規則において定めるべき事項については、労基法89条に列挙されています。同条の1号ないし3号は必ず明記が必要となります。その他は記載があれば効力を認めるという分類になるものですが、懲戒処分については、就業規則に定めがなければそもそも行えないので、必要といってよいでしょう。

 同条に列挙されていない事項は記載してはならないかというと、そうではありません。規則の趣旨や目的、職位・職階の構造、従業員に求める心得なども記載する例は多くあります。

 就業規則の新規制定の際には、規則の作成と併せ、①労働者の過半数で組織された労働組合または労働者の過半数の代表者の意見聴取(労基法90条1項)、②所轄労働基準監督署への届出(労基法89条)、③職場の見やすい場所への掲示か備え付け、または書面交付、もしくは記録媒体を用いてパソコンでの閲覧を可能とするうちのいずれかの方法での周知(労基法106条)という手続きをとることとなります。

 就業規則の改正の際も、基本的には同様のプロセスで行うこととなります。ただ、改正による規則の変更が労働者に不利益なものである場合には、かかる不利益な変更を行うことについて合理性が求められるため、注意が必要です。

 就業規則は、特に限定されていなければ、全労働者に適用されることとなります。そのため、正社員と非正規労働者とで条件に差異を設ける必要がある場合などは、それぞれ別個に就業規則を作成した上で、どの規則が誰に対し適用されることとなるのかを限定・明記しておかなければなりません。

 最後に、これまで見てきたように就業規則には労働者が守るべきルールとしての効力があり、内容それ自体や改正にもいろいろ制約があります。そのため、作成や改正には相応の手間・時間を要することとなります。ですから、一度就業規則を定めると、当面はそれを運用することとなる可能性が高いです。

 それならば、作るときはできるだけ完成度の高いものを作るということが大事になると考えられます。ここにいう「完成度」とは、単に就業規則が各種規制に引っ掛からないということだけではなく、会社の現状や今後の展望に合致したものであるという意味です。会社の経営方針や企業風土との間に無理な摩擦を起こさないか、業務内容から予期されるトラブルにつき懲戒事由などの整備ができているか、賃金や休暇の定めが業績や人事制度に合ったものであるか、良い就業規則を作るために考えなければならないことはたくさんあります。

 就業規則の作成は労働者に対する使用者からのルール策定であり、労働者により良く働いてもらうための干渉ができる貴重な機会だと思われます。法律で作成が義務付けられているから、判例で定めが必要とされているからという消極的な理由だけ作成するのはつまらないでしょう。使用者のためのツールとして就業規則を考えてみるのは、なかなか面白いかもしれませんね。