今回は、「労働時間」について考えていきます。

 「開店」「閉店」といった概念がない宿泊施設では、業務開始時刻および終了時刻が定まっていない場合があり、従業員の労働時間が長くなってしまう傾向にあります。

 労働基準法(以下「労基法」)32条1項においては、労働時間は一週間につき40時間、一日につき8時間を超えてはならない旨規定されており、これ以上の時間労働をさせる場合は、原則として時間外割増賃金を支払う必要があり(労基法37条1項)これに違反すると、罰則の定めもあります(労基法119条1号)。ここから、会社は気付かないうちに法律に違反していることの無いよう、従業員の労働時間を正確に管理する必要があります。

 しかし、「労働時間」の意味が明確でなければ、これを正確に管理することはできません。まずは「労働時間」とは何かを確認する必要があります。

 この点、最高裁判所の判例によれば、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうとされています。これには現実に作業に従事している時間のみならず、会社からの指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間として会社の指揮監督下に置かれている時間(手持時間)を含みます。

 例えば、始業時刻よりも一定時間早く出勤するように労働者に指示を出し、始業時刻までに着替えや準備作業を行わせるといった運用の会社がありますが、このような着替えや準備行為の時間も会社の命令によって行われ、会社の指揮監督下にあるものと判断できる場合は、労働時間に該当する可能性があります。

 「労働時間」か否かは客観的に判断されるため、仮に就業規則上に始業時刻の定めがあり、従業員も始業時刻を認識して行動していたとしても、それは結論を左右しません。

 また、休憩時間とされる時間であっても、実質的にみて会社の指揮監督下にあるものと認められれば、労働時間に含まれる可能性があります。

 ホテル・旅館において、休憩時間中であっても宿泊客からの呼び出し等があれば、すぐに対応しなければならないとされている場合、このような時間は労働時間と判断される可能性があります。事業場内での仮眠時間についても、呼出し・警報等があれば作業に就くことを求められている場合は、この仮眠時間全体が労働時間にあたると判断されてしまう可能性もあります。労働から完全に解放されている、といえなければ、仮に休憩時間として扱われる時間帯であっても、労働時間と判断されてしまう可能性があるのです。

 このように、会社が予想していない時間が労働時間と認められることで、会社が従業員に対して、予期せぬ多額の残業代の支払義務を負う場合もあるため、「指揮命令下に置かれているか否か」という点に注意し、労働時間を正確に把握していくべきと考えられます。

 なお、厚生労働省の通達では、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置として、始業・終業時刻の確認及び記録を定め、使用者自らの現認、タイムカード、ICカード等の客観的記録を基礎とする、とされています。管理も容易になりますので、現在このような労働時間把握の措置を取っていない場合は、準備しておくべきでしょう。