一般に、正社員といった労働契約に期間が定められていない労働者と、契約社員、パート、アルバイトのような労働契約に期間が定められている労働者は、前者が「正規労働者」、後者が「非正規労働者」として区別されます。
 しかし、近年、バブル経済崩壊後の長期にわたる経済不況下で、雇用形態が流動化・多様化し、非正規労働者であっても正規労働者と同じように働いている場合もあることから、単純に雇用形態の呼称だけを基準にして区別することに対する問題意識が生まれています。

 このような問題意識の表れの1つとして、労働契約が終了する際の問題があります。
 非正規労働者について、労働契約の期間満了に際し、使用者が契約の更新を拒絶することを「雇止め」と呼んでいます。
 そして、特に仕事が一時的とか季節的とかいうわけではなく、契約更新を繰り返してきたような場合には、正規労働者の解雇の場合と同様、解雇権の濫用ではないか厳しい基準で判断するべきとされる場合があります。
 (ただし、正規労働者の解雇と非正規労働者の解雇では、解雇権の濫用ではないかの判断基準に合理的な差異が認められる場合もあります。)

 上記の「非正規労働者の雇止めであっても、正規労働者の解雇と同様に解雇権の濫用でないか厳しく判断するべきとされる場合」とは、有期雇用契約が、実質的に期間の定めのない労働契約と変わらない状態になっている場合や、有期雇用契約の更新に対する合理的な期待がある場合であるとされています。

 具体的には、以下のような要素がポイントになってきます。

① 仕事の内容が臨時的・補助的か、基幹的か
② 更新の回数
③ 雇用の通算期間
④ 契約期間管理の状況(更新手続が形式的だったり、杜撰だったりしないか)
⑤ 雇用契約継続の期待をもたせる言動や制度の有無
⑥ 労働者の継続雇用に対する期待の相当性

 「① 仕事の内容が臨時的・補助的か、基幹的か」という点については、もちろん基幹的な業務を行わせている方が、有期雇用契約が、実質的に期間の定めのない労働契約と変わらない状態になっているとか、有期雇用契約の更新に対する合理的な期待があるとか判断される可能性が高くなります。

 「② 更新の回数」「③ 雇用の通算期間」については、2カ月という短い期間の有期雇用契約が5回更新されて10カ月になっただけでは足りないと判断された例があり、また、1年間の有期雇用契約が4回更新されて通算期間が4年を超えた程度でも短いと評価されるようです。

 「④ 契約期間管理の状況」とは、更新手続が形式的で、契約書を作成しないことがあったり、契約期間が明確にされていなかったり、事後的に契約書を作成したりしたような場合、有期雇用契約が、実質的に期間の定めのない労働契約と変わらない状態になっているとか、有期雇用契約の更新に対する合理的な期待があるとか判断される可能性が高くなるということです。
 逆に、雇用契約の期間を明示して、期間満了毎に契約書をきちんと作成していれば、期間の定めがあることを非正規労働者に認識させていたと評価されると感じています。
 また、契約書に更新の条件を明示することも重要であると思います。
 ただし、契約書に記載してあっても、契約書を渡して何の説明もせず、判子を押して返してくださいね、というのでは不十分です。更新の条件などに変更があった場合、変更点については労働者に説明しておく必要があるでしょう。

 「⑤ 雇用契約継続の期待をもたせる言動や制度の有無」という点について、まず言えることは、採用面接で「希望する限り働き続けられる」とか発言したり、契約書に定年の記載をしたりすることは止めたほうがよい、ということです。
 逆に言えば、非正規労働者に対し、雇用継続の保証はなく、不安定な契約関係であることをしっかりと認識させておくことが必要であると思います。たとえば、契約社員から正社員に登用される条件を定めておくことや、正社員登用試験を行うことは、正規労働者と非正規労働者の違いを認識させるために有効であると考えられます。

 「⑥ 労働者の継続雇用に対する期待の相当性」とは、他の非正規労働者が長年更新を繰り返して雇用されているというような事情があった場合、有期雇用契約が、実質的に期間の定めのない労働契約と変わらない状態になっているとか、有期雇用契約の更新に対する合理的な期待があるとか判断される可能性が高くなるということです。

 以上のように、有期雇用契約が、実質的に期間の定めのない労働契約と変わらない状態になっているとか、有期雇用契約の契約更新に対する合理的な期待があるというように判断され、正規労働者の解雇の場合と同様、解雇権の濫用ではないか厳しい基準でみるべきであると判断されないために、会社として取れる予防手段はいくつかあります。しかし、うっかり、契約更新の期待につながる発言をしてしまっているかもしれません。非正規労働者の労働契約手続きについて、見直してみるといいかもしれません。