こんにちは。
 労働者派遣法が改正され、派遣労働者に対する保護の在り方が問題となっています。派遣労働者の割合は若干の減少傾向にあるものの、就職難の今、雇用の不安定な派遣労働を強いられている人々も多くいます。特に30代の働き盛りの労働者が派遣労働者となる割合が高く、退職後の正社員への再就職ができずに派遣労働者となっているものと考えられます。そのような派遣労働者に対する労働者の認識はネガティブな傾向にあり、正社員と比べて劣った労働者であるとの認識もあるかもしれません。

 今回は、正社員のそのような認識に基づく行動がパワハラであるとされた事例を紹介いたします。

1.事案の概要(大津地裁平成24年10月30日判決)

 本件では、派遣労働者として就労していたXが、派遣先のY社の正社員らからパワハラを受け、同派遣先を退職せざるを得ない状況に追い込まれた事案です。A及びBはYの工場の製造ライン責任者であったところ、AとBの指示が対立していることが多く、たとえば、Aから引き継ぎを受けた作業をしていたところ、Bから作業効率が悪いため別の作業をするよう指示されたことから作業をやめたが、後にAから「命令違反だ」などと咎められたり、Xが有給休暇を取得しようとしたところ、Aから「生産あるから」と出勤を促す発言を受けた直後、Bから「来んでもいいで。休んどけ」と指示されたため有給休暇を取得したところ、Aから雇用を喪失することになるかのような言動を受け、Xの車に対して損傷を加える旨の言動を受け、現実に車に何者かから傷をつけられる被害を受けました。

 これ以外にも、Aは、Xに対し、「殺すぞ」「あほ」といった発言を受けたり、体調不良で取得した休暇を咎められたり、当該休暇中にパチンコに行ったのではないかなどと詰問されたり、突然、車は壊れたか否か尋ねる質問をしたり、挨拶を無視する等の言動を行いました。

 Xは、Yに苦情を申し立てたものの、当初Fらに対する事情も聴取せず、見回りを強化するのみで、Xが労働局にあっせんを申請して、初めて事情聴取を行っていました。

2.判決

 まず裁判所は、以下のように正社員と派遣労働者との関係性について述べました。

「Yの正社員であり、Xを含む派遣労働者を指示・監督する立場にあるAらは、指揮命令下にある部下に対する言動において、その人格を軽蔑、軽視するものと受け取られかねないよう留意し、特に、派遣労働者という、直接的な雇用関係がなく、派遣先の上司からの発言に対して、容易に反論することは困難であり、弱い立場にある者に対しては、その立場、関係から生じかねない誤解を受けないよう、容易で、うかつな言動を慎むべき」である。

 そして、本件に関しては以下のように判断しました。

「AらのXに対する……各言動は、いずれも、その配慮を極めて欠いた言動で、その言動の内容からすると、Aらの主観はともかく、客観的には、反論が困難で弱い立場にあるX(の人格)をいたぶる(軽蔑、軽視する)意図を有する言動と推認でき、その程度も、部下に対する指導、教育、注意といった視点から、社会通念上、許容される相当な限度を超える違法なものと認められ」る。

3.派遣社員の取り扱いについて

 本件は正社員と派遣労働者の力関係に留意したうえで判断されたものであり、正社員に比べて派遣労働者は弱い立場であると裁判所が判断した点に注目すべきものと思われます。

 そして、パワハラは強い立場の者が弱い立場の者に、立場を利用としていやがらせをするものであることから、当該構造が正社員と派遣労働者との間の構造に当てはまるということになります。

 そのため、派遣労働者を扱うに際しては、会社としては、正社員の安易な言動がパワハラになり得ることを十分に認識した上で、正社員に対して指導・監督等を行っていく必要があると思われます。

弁護士 中村 圭佑