ゼミ終了後の雑談における、教授Mとゼミ生H君、Iさんとの会話

H君「そういえば、『借地借家法』って、なんて読むんですか?『しゃくちしゃくやほう』?『しゃくちしゃっかほう』??」

Iさん「『しゃくちしゃくやほう』かしら?」

H君「どうしてそう思うの?」

Iさん「だって、そもそも借地法と借家法とが合体して出来た法律でしょ?だから、『しゃくちほう』と『しゃくやほう』とが合わさって『しゃくちしゃくやほう』というわけ。どう?」

H君「なるほどー・・・ん?借家法が『しゃっかほう』って読むかもしれないじゃないか。」

Iさん「あら、よく気付いたわね。ごめんなさい、私もよく知らないの。」

H君「適当に答えないでよ。信じちゃうじゃないか。」

M教授「読み方としてはどちらも間違いではないようだよ。ただ、どちらかといえば『しゃくちしゃっかほう』という読み方が正当派なようだね。例えば、有斐閣の法律用語辞典(第3版)によれば、借地借家法は『しゃくちしゃっかほう』として掲載されている。ただ、『借家』単体では『しゃくや』で掲載されていて、本文で『しゃっか』とも読む、と説明されていたりする。そもそもどちらも音読みだから、主従関係をつけるのは難しそうだね。」

H君「どちらも間違いでなければそれでいいんですよ。人前でどう読んでも恥ずかしくないということが分かれば。」

Iさん「恥ずかしいと言えば、このあいだ民法の試験の時に、借地借家法を引用しなければいけないのに、借地法を引用して問題を解いてしまって、すごく減点されてしまったわ。なんで古くなった法律を未だに六法に載せているのかしら?」

H君「たしかにそうだね。えーっと、借地法も借家法も、平成4年8月1日に廃止されて、借地借家法がその日から施行されているんだよね。もう借地法なんて適用されないんじゃないのかな?」

M教授「そんなことはないですよ。借地借家法の附則4条以下を見ていくと『なお従前の例による』と書いてあるものがいくつもあるでしょう。これは、借地法を適用する場合があることを示していますよね。」

Iさん「本当ですね。こんな、附則なんて初めて読みました。なるほど、適用される可能性があるので、まだ六法に掲載されているんですね。」

M教授「おそらくそうでしょう。では、せっかくなので少しだけ読み解いてみましょうか。とりあえずは、一番重要な、借地借家法の附則6条を確認してみましょう。」

H君「『この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による。』と書いてあります。」

M教授「そうですね。借地法が適用される時代に締結された借地契約については、借地借家法が適用される時代であっても、借地法の規定に基づいて更新に関する判断がされるということになります。」

Iさん「具体的に2つの間では何が違うのですか?」

M教授「借地法でも借地借家法でも、借地権というのが建物の所有を目的とするものであることは同じです。ですが、借地法では、建物の種類を2つに分け、堅固建物と非堅固建物という区別をしました。建物の寿命にあわせて、土地の利用も出来た方が良いという判断ですね。そして、堅固建物の所有を目的とする借地権は原則60年、非堅固建物の所有を目的とする借地権は原則30年間の期間が与えられることになっています(借地法2条)。これに対して、借地借家法ではこれらの区別を廃止して、一律30年を原則としました(借地借家法3条)。」

H君「建物の種類の区別があるかどうかが違うということですね?」

M教授「そういうことです。また、その区別に応じて、更新に関する規定も異なっています。すなわち、借地法では、堅固建物は更新すると30年、非堅固建物は20年が原則とされています(借地法5条1項)。これに対して、借地借家法では、初回更新は20年、その後は10年ごとの更新という規定になっています(借地借家法4条)。」

Iさん「そうすると、更新後の期間に関しては借地法の定めの方が長いというわけですね。」

M教授「そういうことになりますね。どちらの法律が適用される借地契約なのか、きちんと把握して法律の適用を考えなければなりません。」

H君「平成4年8月1日以前に締結された借地契約かどうかを、毎回確認しなければならないということですね。間違えないようにしないと。」

M教授「それでは、今日の教訓は?」

Iさん「附則まできちんと読んでいれば、不測の事態にも対処できる、ということで?」

H君・M教授「・・・・・・」

Iさん「寝不足なので今日は帰りますね~。さようなら。」

H君・M教授「・・・・・・」

弁護士 水野太樹