前々回の記事で区分所有者の特定承継人(マンションの区分所有権を買い受けた人)にも、区分所有者が滞納した管理費等を請求できる話をしました。では、特定承継人が、区分所有者が滞納した管理費等を支払った場合、区分所有者に対して、求償することができるのでしょうか?

 この点について問題になった裁判例(東京高裁平成17年3月30日判決)があります。

 特定承継人は、民法442条の規定(連帯債務者間の求償)を根拠に区分所有者に対して、支払った滞納管理費等の求償をしました。

 一方、本件では、特定承継人はマンションの区分所有権を競売によって取得したので、区分所有者は、物件明細書等に管理費等の滞納分があることが明示され、最低売却価額から滞納分が控除されており、特定承継人は、滞納分があることを分かったうえで、安い価格で物件を取得しているのであるから、求償はできないと反論しました。

 裁判所は、区分所有者と特定承継人の関係について

「債務者たる当該区分所有者の債務とその特定承継人の債務とは不真正連帯債務の関係にあるものと解されるから、真正連帯債務についての民法442条は適用されないが、区分所有法8条の趣旨に照らせば、当該区分所有者と競売による特定承継人相互間の負担関係については、特定承継人の責任は当該区分所有者に比して二次的、補完的なものに過ぎないから、当該区分所有者がこれを全部負担すべきものであり、特定承継人には負担部分はないものと解するのが相当である。」

と判断し、特定承継人の区分所有者に対する求償を認めました。

 また、裁判所は、区分所有者の反論について

「物件明細書等の競売事件記録の記載は、競売物件の概要等を入札希望者に知らせて、買受人に不測の損害を被らせないように配慮したものに過ぎないから、上記記載を根拠として本件管理費等の滞納分については当然買受人たる被控訴人に支払義務があるものとすることはできない。」

と判断して、区分所有者の反論を入れませんでした。

 この判例からすると、当たり前といえば、当たり前ですが、管理費等滞納者の逃げ得は許されないってことですね。

弁護士 竹若暢彦