今回は、区分所有法8条の「特定承継人」に関する裁判例について紹介します。

 区分所有法8条は、例えば、あるマンションの居住者が管理費などを滞納したまま、別の人に部屋を売却して権利を譲渡した場合に、部屋の譲渡を受けた譲受人にも滞納管理費などを請求できることを規定した条文です。

 「特定承継人」とは、区分所有者から売買、贈与等の個々の原因に基づいて区分所有権を承継取得する者をいいますが、この「特定承継人」に中間の特定承継人も含まれるかという問題があります。

 具体的には、管理費等を滞納していたAさんがマンションの権利をBさんに譲渡し、さらにBさんがCさんにマンションの権利を譲渡した場合に、Aさんの滞納していた管理費等をBさんに請求することができるかという形で問題になります。

 裁判例では、Bさん、つまり中間の特定承継人が区分所有法8条の「特定承継人」に含まれるかについて、否定例(大阪地裁昭和62年6月23日判決)と肯定例(大阪地裁平成21年3月12日)の両方が存在します。

 否定した裁判例は、

「旧規定15条が民法254条と同趣旨に出た規定であって、同条の立法趣旨が前記のとおりであると解するとき、負担となるべき共用部分についての債権は区分所有権がそのひき当てとなっており、かつ特定承継人の債務負担はその限りにおいてのみ意味があるものと解すべきである。それゆえ、旧規定15条に定める特定承継人はその負担を支える区分所有権を現に有する特定承継人に限られると解すべきである。そして、このことわりは、新規定8条に定める特定承継人についても妥当する。」

と判断しました。なお、旧規定15条は、現行区分所有法8条とほぼ同様の規定です。

 つまり、否定例は、共用部分に関する債権は、区分所有権、つまりマンションの所有権だけがそのひき当てになっているため、現にマンションの所有権を有する者が「特定承継人」であり、すでにマンションの所有権を有していない中間の特定承継人は「特定承継人」に当たらないと判断したのです。このような判断がなされたのは、旧規定15条が特定承継人の不利益をも考慮した規定であると判断したことが背景にあるようです。

一方、肯定した裁判例は、ちょっと判旨が長いのでまとめると、以下の理由から肯定しました。

① 区分所有建物の管理費等は、建物等の全体の価値に化体しており、中間取得者も建物に化体した価値に対応する利益を享受していること
② 区分所有法8条の文言は「区分所有者の特定承継人」とするのみで、現に区分所有権を有している特定承継人に限定していないこと
③ 中間取得者が、訴訟中や敗訴判決確定後に、区分所有権を譲渡すれば、中間者はその責任を免れることになり、管理費の負担者側の実質的保護に欠けることになりかねないこと

 肯定例は、③の理由からわかるように区分所有法8条の実効性を重視したと考えられます。

 このように、中間の特定承継人が区分所有法8条の「特定承継人」に含まれるかという問題について肯定例、否定例いずれもありますが、最近の裁判例(大阪地裁平成11年11月24日判決、福岡地裁平成13年10月3日判決、東京地裁平成20年11月27日)は肯定例が多いようです。

弁護士 竹若暢彦