厚労省ウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html)によると、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、近年大幅に増加しており、平成20年には323万人にものぼっているそうです。
精神疾患を抱える患者の増加により、企業においては、労働者が精神的な不調により欠勤するというケースが多くなっているものと思われます。
そこで、今回は、精神的な不調により、実際には存在しない事実に基づき欠勤した労働者について正当な理由がない無断欠勤であるとしてなされた諭旨退職の懲戒処分が無効とされた判例(最高裁平成24年4月27日裁判所時報1555号240頁)をご紹介します。
本件の労働者(以下、「X」とします。)は、被害妄想など何らかの精神的な不調を原因として、実際には事実として存在しないにもかかわらず、約3年間にわたり加害者集団から盗撮や盗聴等を通じて監視され、職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを受けているとの認識を有していました。
そのため、会社(以下、「Y」とします。)に対し上記の被害に係る事実の調査を依頼したものの納得いく結果が得られず、Yに対し休職を認めるように求めたものの認められず出勤を促されたことなどから、自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめYに対し伝えたうえで、有給休暇をすべて取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けました。
判例は、精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者は、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されることや欠勤の原因や経緯を理由として、使用者であるYは精神科医による健康診断を実施する等した上で、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであると判断し、このような対応を採ることなく、Xの出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであるから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を採ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難いとして、Yの処分を無効としました。
本判決は事例判決とはいえ、増加の一途をたどる労働者の精神的な不調による欠勤に対する対応の参考になると考え、ご紹介しました。