近年、燃料費の高騰が問題となっておりますが、燃料費高騰等による経営状況の悪化を理由とした従業員の解雇は許されるのでしょうか。

 この点、ある会社Yが、リーマンショックによる売上の急減(月売上比最大25%減)、燃料費高騰に伴う採算性の悪化を受けて行った運転手Xへの整理解雇につき、1審が解雇を無効としたため、Yが控訴したという事案があります(東京高判平成25年4月25日)。

 まず、裁判所は、整理解雇の有効性について、①経営不振等、経営上の十分な必要性に基づくものか、又はやむを得ない措置と認められるか(整理解雇の必要性)、②労働者の不利益がより小さい、客観的に期待可能といえる他の措置を取っているか(解雇回避努力義務の履行)、③被解雇者の選定方法が相当かつ合理的なものであるか(被解雇者選定の合理性)、④使用者が解雇の必要性・時期・規模・方法等について説明をし、労働者と十分に協議しているか(手続の妥当性)等の事情を総合考慮した上で、当該解雇にやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるかという観点から判断する、としました。

 そして、①から④の各要素に該当する事実として、①Yは新規融資が受けられず、ワークシェアリング等勤務体制の変更、役員報酬や従業員の給与の削減等の措置を講じた上、顧客から代金前払いを受けつつ、消費税や社会保険料の支払いを留保して、ようやく給与等の支払原資を確保できたという状況にあったこと、②ワークシェアリングや退職勧奨等を講じたうえ、他部署の従業員も大幅に削減していたため、Xを配置転換することは困難であったこと、③Xの言動が協調性に欠けており、他に成績等の観点から解雇すべき従業員が存在しない中で、業務の円滑な遂行という観点からXを解雇することには一定の経営的合理性が認められること、④Yの人員削減の方針はXも当然に承知していたし、YからXに対し協調性を重視して選定したことは伝達していたから、解雇の違法性を基礎付けるほどの手続上の事由があるとは認められない、と認定して、Xの解雇を有効と判断しました。

 このように、燃料費の高騰等により経営状況が悪化した場合でも、裁判所は、当該事由に基づく解雇を当然には有効とはせず、上記①から④の4つの基準に該当する事実を確認したうえで、当該解雇が必要やむを得ない措置であったのかを厳格に判断しています。今後、さらなる燃料費の高騰等によって整理解雇を検討せざるを得なくなった際には、上記事例及び基準にご留意いただければと思います。