皆様こんにちは。弁護士の菊田です。

 本日は、前回お伝えした通り、条約の非締約国相手に取引をして、準拠法を日本法とする合意ができなかった場合に適用される法律はどこの法律なのか?ということを説明しようと思います。
 なお、以下の説明は、日本の裁判所に管轄が認められた場合の話なので、外国の裁判所で訴訟が行われる場合には、必ずしも妥当するものではないことにご注意ください。

 条約の非締約国相手に取引をして、準拠法を日本法とする合意ができなかった場合には、①日本法でなく外国の法が適用されるとの合意が成立している場合と、②準拠法に関する合意がない場合が考えられます。

 ①の場合は、合意に従って、当該外国法が適用されます(法の適用に関する通則法第7条)。
 ②の場合は、「法律行為に最も密接な関係がある地の法」が適用されます(同法第8条1項)。とはいっても、このような抽象的な文言では、ピンと来られない方も多いかと思います。

 そこで、同法8条2項に目を移すと、「法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(なお、企業の場合には「法律行為に関係する事業所の所在地の法」となります。)を最も密接な関係がある地の法と推定する」とあります。そして、売買契約は、目的物の引渡しという特徴的な給付を、売主のみが行う契約であると一般的に考えられています。

 すなわち、売買契約において、準拠法の合意がない場合には、売主の常居所地法が準拠法と「推定」されます。

 なお、これはあくまでも「推定」なので、この推定が覆る可能性もあります。しかし、法律上の推定がはたらく以上は、この推定を争う当事者がこの推定を覆さなければならず、この推定がはたらくだけで、この推定される地の法の適用を望む当事者が有利になることは間違いありません。

 まとめると、②の場合には、売主の常居所地法が準拠法となる可能性が高いものの、この法が100%適用されるわけではない、ということになります。そのため、外国企業と売買契約を締結する際、相手国が条約の非締約国であり、かつ、自身が買主であった場合には、できる限り日本法を準拠法とする合意をしておくことが望ましいといえます。