皆様こんにちは。弁護士の菊田です。
今回は、前回に引き続き、合意管轄の話です。
前回お話しした通り、国際裁判管轄合意は、判例上、その有効要件は厳格なものとは考えられてはきませんでした。もっとも、前回紹介した判例で、裁判所は、以下のようにも述べています。
「被告の普通裁判籍を管轄する裁判所を第一審の専属的管轄裁判所と定める国際的専属的裁判管轄の合意は、「原告は被告の法廷に従う」との普遍的な原理と、被告が国際的海運業者である場合には渉外的取引から生ずる紛争につき特定の国の裁判所にのみ管轄の限定をはかろうとするのも経営政策として保護するに足りるものであることを考慮するときは,右管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合は格別、原則として有効と認めるべきである。」
ここで注目してほしいのは、下線部の「管轄の合意がはなはなだしく不合理で公序法に違反する等のときの場合は格別」と述べていることです。つまり、裁判所は、管轄合意が形式的な要件をみたしていても、その内容がはなはだしく不合理で公序法に違反するものである場合には、例外的に、管轄合意の効力が否定される余地を残したものといえます。
ここでは、具体的にどのような場合に公序法に違反するかは述べられていません。しかし、そもそも国際裁判管轄は、当事者間の公平という観点、及び、管轄地と事件との関わりの深さという観点から判断されるものであることからすると、これらの観点からみて「はなはだしく不合理」といえるような場合には、「公序法に違反する」と判断されるのではないかと思います。例えば、当事者の一方が世界各国に営業所を持ち、オランダに本社を置く大企業で、他方が日本国内にしか営業所のない中小企業である場合に、管轄合意でオランダの裁判所に専属的な管轄を認めると合意されている場合や、船積時における目的物の損傷の有無が問題となる事案で、船積がブラジルで行われているにもかかわらず、合意管轄でニューヨーク州の裁判所に専属的な管轄を認めると合意されているような場合には、「公序法に違反する」と判断される可能性はあると思います。
もっとも、前回紹介したように、この判例では、当事者のどちらにも関係が深いとは思えないオランダの裁判所に専属的な管轄を認める旨の合意の効力が肯定されました。このことからすると、「公序法に違反する」と判断されるためのハードルは高いと考えていいと思います。簡単に合意の効力を否定されては合意管轄を認める意味もなくなってしまいますので、ハードルが高いのは当然ではあるのですが。
そのため、管轄合意については、紛争発生後に合意を争おうとするのではなく、そもそも合意を締結する時点で、自分にとって都合のいい裁判所を管轄裁判所とする旨の合意をしておくのが一番望ましいといえます。皆様も、外国の企業と取引をする際には、ご留意下さい。