今回は、社外労働者に安全配慮義務に関する福岡高判昭和51年7月14日をみてみたいと思います。
使用者は、契約の相手方である労働者に対して、締結した労働契約に基づいた義務のみを負うのが原則といえます。そして、雇用契約の当事者間で、使用者がその労働者に対して安全配慮義務を負うことは、最高裁でも確認されていますが(最判昭和59年4月10日参照)、
社外労働者のような第三者の責任が最も頻繁に問題となるのは、末端下請労働者の労災における元請企業又は中間下請企業の責任及び社外労働者に労災における元請企業の責任についてですが、労働災害が労働契約法上の使用者以外の第三者の故意又は過失によって生じた場合には、被災労働者(またはその遺族)は、第三者に対し不法行為責任の追及をなし得ます。
この点、本判決は、雇用関係や契約関係がない注文者(元請企業)と請負人(下請企業)の労働者との間にも安全配慮義務(本判決では「安全保証義務」とされています。)と同一の内容の義務を認めうるとしました。
事案は、次のようなものです。
Aは、訴外B社工事現場において、地上31メートルの鉄骨塗装作業をしていたところ、地上に墜落し死亡しました。Aの両親であるX1及びX2、ならびにAの弟妹であるX3~X7が、Aを雇用していたY1社及び鉄骨塗装業工事をY1社に下請けしていたY2社に対し、Aの死亡に関し、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を請求したというものです。
判旨は次のように述べました。
「注文者、請負人間の請負契約を媒介として事実上、注文者から、作業につき、場所、設備、器具類の提供を受け、且つ注文者から直接指揮命令を受け、請負人が組織的、外形的に注文者に注文者の一部分のごとき密接な関係を有し、請負人の工事実施については両社が共同してその安全管理に当たり、請負人の労働者の安全確保のためには、注文者の協力並びに指揮監督が不可欠と考えられ、実質上請負人の被用者たる労働者と注文者との間に、使用者、被使用者の関係と同視できるような経済的、社会的関係が認められる場合には注文者は請負人の被用者たる労働者に対しても請負人の雇用契約上の安全保証義務と同一内容の義務を負担するものと考えるのが相当である。」
その後、本判決の論旨は、最高裁でも確認されています(三菱難聴事件、最判平成3年4月11日)。
同判決が、特別関係論の射程を元請直用労働者と同様の作業内容などが認められる場合に拡張した原審を支持したことが転機となり、同判決を引用しつつ、「必ずしも直接の契約関係(たとえば雇用関係)を必要としない」と判示する裁判例も現れています。
直接の雇用関係がない場合でも、雇用関係の実質によっては、契約の当事者でない社外労働者の安全配慮義務にも注意する場合があるといえると思われます。
弁護士 髙井健一