こんにちは。今回は、医師の受診命令についてお話したいと思います。
会社には、正社員の入社時及び常時使用する労働者に対しては年1回定期に、健康診断を実施する義務があります(労働安全衛生法66条1項)。また、一定の有害な業務に従事する労働者に対しては特殊健康診断等の実施義務があります(同法66条条2項)。違反をすると、罰金が科せられます(同法120条)。そして、使用者は、健康診断結果の記録を作成し、5年間保存しなければなりません(同規則51条)。
健康診断の受診項目は労働安全衛生規則44条に記載されています。平成20年4月1日から、腹囲の検査と、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)検査が加わり、生活習慣病の予防の取り組みがなされています。
使用者に健康診断の実施義務があることに対応して、労働者には、健康診断の受診義務があります(安衛法66条5項本文)。
では、法律に定められた項目以外の検診を労働者に義務付けることは可能でしょうか。
この点が争われた事件として、電電公社帯広局事件(最高裁昭61.3.13)があげられます。
事案は、電話交換作業に従事しており、頸肩腕症候群と診断された労働者に対し、会社が、健康診断の項目外である、総合精密検査の受診を命じたものの、労働者が拒否したため、受診命令の有効性が争われたというものです。なお、会社の就業規則及び健康管理規程には、健康管理従事者の指示に従う義務が定められていました。
最高裁は、受診命令は、労働者の診療を受けることの自由及び医師選択の自由を侵害することにはならないとして、受診命令を有効と判断しました。
もっとも、本件の事例は、電話交換職が罹患した頸肩腕症候群について、発症後3年以上が経過しても、軽快しない者の割合が高かったため、会社としては、早期健康回復を目的として、総合精密検査を実施したという事情がありました。
医師の受診は、身体への侵襲も伴う場合があり、個人の医療情報は、秘匿性が高く、受診は本来従業員の自由に委ねられるべきものであるのに、受診を労働者に命じるものですから、業務上の必要性から行う場合はともかく、単なる福利厚生の観点から行う場合(人間ドック等)は、希望者のみを対象にするなど、原則として、労働者の同意が必要であると思われます。