4 結び
本判決は、一事例判決ではあるものの、債務者の責めに帰すべき事由による債務不履行の場合に、日本民法には規定のない債権者の損害軽減義務を正面から肯定した重要なもの[3]です。
もっとも、損害軽減義務については、経済合理性に即した行動をとらなかったことによるリスクを、債務不履行につき帰責事由のある債務者ではなく、被害者である債権者が負担する点につき疑問が呈されてもいます。[4]
本判決の射程は、なお慎重な吟味を要しますが、経済合理的な行動をとることが期待される企業には、一般の消費者に比して、損害軽減義務が認められ易いと考えられます。
それゆえ、本判決(ないし損害軽減義務の法理)は、企業法務実務において、参考となる先例であると思われますので、ご紹介した次第です。
今回のお話は以上となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
弁護士 伊藤蔵人
[1] 内田貴「契約の拘束力――強制履行と損害賠償」『契約の時代――日本社会と契約法』174頁。
[2] 野澤正充「賃貸人の修繕義務の不履行と賃借人による損害の回避」(判タNo.1298(以下「野澤」)‐63頁。
[3] 野澤68頁。
[4] 潮見佳男『債権総論Ⅰ[第2版]』388頁。