一昔前の話ですが、米国で、ファーストフード店のドライブスルーでコーヒーをこぼして火傷を負ったおばあさんが、ファーストフード店から数億円の損害賠償を受け取ったという話がニュースになりました。同じように、米国では、電子レンジで猫を乾かそうとしたら猫が死亡してしまったとして、猫の飼い主が電子レンジメーカーを訴えて、多額の損害賠償を手にしたという話がまことしやかに(?)ささやかれています。

 これらの話の真偽のほどはともかく(ちなみに、ファーストフード店のコーヒーの話は訴訟記録として残っていますが、電子レンジの猫の訴訟記録はないそうです)、このようなことが日本でも起こりうるのでしょうか。

 日本では米国と違って懲罰的な損害賠償制度を採用していないため、損害賠償額が米国ほど多額になることは考え難いですが、製造物責任法という法律によって、メーカー企業が消費者に生じた損害について損害賠償責任を負わされる可能性はあるといえます。

 製造物責任法は、通称PL法とも呼ばれています。条文数が6条しかなくコンパクトな法律ですが、大きなインパクトをもっています。

 すなわち、製造物責任法は、メーカーがその製造物によりユーザーに何らかの損害を与えた場合に、メーカーに故意または過失がなくても製造物に欠陥があればメーカーに損害賠償責任を負わせる効果を定めているのです。製造物責任法が施行される前は、製造物から被害を受けたという事案では、加害者の「故意又は過失」が裁判上大きな争点になっていました。しかし、被害者であるユーザーが、メーカー内部の事情を知る手段は限られており、加害者であるメーカーの故意や過失を証明することは非常に困難です。そこで製造物責任法では、被害者はメーカーに故意や過失がなかった場合でも、製品そのものに「欠陥」があったことを証明できれば、メーカーに対して損害賠償請求をすることを可能としたのです(製造物責任法3条本文)。

 ここで、「製造物」とは、製造又は加工された動産をいいます(製造物責任法2条1項)。そのため、コーヒーやジュースも「製造物」に含まれうることになります。

 また、「欠陥」とは、製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます(製造物責任法2条2項)。

 「欠陥」には、①設計上の欠陥(設計に問題があって、安全性を欠いた場合)、②製造上の欠陥(設計通りに製造されなかったために安全性を欠いた場合)があると言われていますが、近時では、③指示警告上の欠陥(製造物の危険に関する情報を適切に与えなかった場合)も「欠陥」にあたりうると考えられています。

 

 最近では、こたつの中でズボンのポケットに入れていた携帯電話が過熱したために太ももをやけどした被害者が、携帯電話のメーカーに損害賠償請求したという事案(仙台高判平成22年4月22日)がありました。この事案において、裁判所は、結論として当該携帯電話の設計上又は製造上の欠陥を認定して、メーカーに約221万円の損害賠償責任を負わせました。

 当該裁判例では指示警告上の欠陥についても争点となり、メーカーは、取扱説明書に携帯電話を高温の熱源に近づけないようにという警告表示をしていた旨の主張をしていましたが、裁判所は、こたつが「高温の熱源」に当たるとは直ちにはいい難いし、そのような警告表示が、携帯電話機をことさらコタツの熱源に接触させるような行為はともかくとして、携帯電話をズボンのポケットに収納した状態のままコタツで暖を取るという日常的行為を対象にしているとは到底解されない(仮に、そのような日常的行為の禁止をも含む趣旨であるとしたならば、表示内容としては極めて不十分な記載であり、警告表示上の欠陥があるというべき)、と述べています。

 製造物責任法は企業の訴訟リスクを高めた法律といえます。メーカー企業としては、設計や製造上の欠陥が生じないように設計・製造体制の管理を徹底する必要があるのはもちろんですが、指示警告上の欠陥が生じないように適切な指示警告上の表示を行って、訴訟リスクに備えることが重要となります。

 当法人では、製造物責任法上の警告表示として適切な措置がとられているか否かをレビューすることも業務としておりますので、お気軽にご相談ください!