3 損害軽減義務に関する近時の裁判例
損害軽減義務を肯定した近時の裁判例として、最判平成21年1月19日・民集63巻1号97頁(以下「本判決」といいます。)が挙げられます。
⑴ 事案の概要
本判決の事案は、以下のとおりです。
すなわち、賃借人Xが、賃貸人YからY所有ビルの1区画を賃借してカラオケ店を経営していたところ、浸水事故により同店を営業することができなくなりました。その後も、Yにおいて賃貸人の修繕義務を履行 なかったため、Xは営業を再開できずにいました。そこで、Xが、Yに対して、逸失した営業損害に相当する金額の賠償請求をしたのが本判決の事案です。
⑵ 裁判所の判断
かかる事案を前提として、裁判所は、以下のような判断を示しました。
すなわち、裁判所は、まず、事業用店舗の賃借人が、賃貸人の債務不履行により当該店舗で営業することができなくなった場合には、これにより賃借人に生じた営業利益喪失の損害は、債務不履行によって通常生ずべき損害にあたるとして、民法416条1項に基づいて賃貸人に対する賠償請求を認めました。
他方、Xがその損害を回避または減少させる措置を執ることができたと解される時期以降における営業利益相当の損害のすべてについてYに賠償を求めることは、条理上認められない旨判断しました。