今回は、企業が従業員のメンタルヘルスや私傷病等についても、健康管理義務があり、さらに一歩推し進めた健康配慮義務をも負うとされる場合があることについて、お話ししたいと思います。

 まず、労働安全衛生法上の健康管理義務とは、民事上の安全配慮義務の下位概念であり、健康管理義務の一内容として、健康配慮義務があります。ただ、両者の内容はほぼ重複しており、具体的に峻別する実益はないように思われますので、健康配慮義務に絞って話を進めます。
 健康配慮義務についての重要な判例としては、電通事件(最二小判平成12年3月24日)があります。この判例では、以下のように判示されています。

「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」。

 このようなことから、企業は、従業員に対して健康診断を行い、生活習慣病や精神疾患を含む様々な傷病をチェックし、配慮する義務が生じることになります(労働安全衛生法66条等)。
 そして、企業が労災認定や損害賠償責任を回避するためには、診断結果のみならず、普段の業務遂行上から知りえた従業員に関する情報に基づき、適切な配慮をしなければならないことになります。

 また、健康配慮義務は、単に身体の傷病のみならず、上記の電通事件で判示されているとおり、メンタルケアに対しても及びます。特に、過重労働発生時には、定期健診にはないメンタル上の保健指導もなされることになっています。