皆様、こんにちは。
寒い日が続く中、いかがお過ごしでしょうか。
本日は、国際裁判管轄と呼ばれる問題についてお話したいと思います。
裁判管轄とは、一言でいえば、とある事件について訴えを提起された裁判所に、その事件を審理する権限があるか、という問題です。例えば、「不動産に関する訴え」については、一般的には不動産所在地との関係が深いと考えられているので、不動産所在地の裁判所に管轄がある(民事訴訟法第5条第12号)、というように日本の民事訴訟法は定めているわけです。なお、1つの事件につき、必ずしも管轄地が1つというようなことはなく、例えば、1つの事件について、東京と大阪のどちらにも管轄がある、というようなケースもあります。
日本国内であっても、遠くの裁判所で裁判をするとなっては、労力もコストもかかるわけですから、当事者間で、管轄裁判所がどこであるかという点が争われることはままあります。
この問題は、国際的な紛争となると、より大きな問題となってきます。もし日本の企業が外国企業と取引をしたけれども紛争が発生した場合、その紛争について、相手の外国企業が外国の裁判所に提訴し、管轄がその外国裁判所に存在すると判断されてしまったら、日本と異なる裁判手続や法律に則って裁判を進められることになります。そうなると、国内の裁判と比較して、裁判への労力やコストがより大きくなってしまうだけでなく、日本の裁判所では予想もつかない結論が下され、大きな損害を被ってしまう可能性もあります(もっとも、その外国裁判所の判決が日本国内でも効力を生じるかという問題はありますが)。
したがって、外国企業と取引をする際には、このようなリスクを避けるために、あらかじめ、この取引についてのトラブルは日本の裁判所で解決する、と契約書等の中にはっきりと示しておくことが望ましいといえます。いわゆる管轄合意というものですね。なお、このような合意の有効性等については様々な議論があるのですが、そのことはまた別の機会にお話しようと思います。
では、もしこのような管轄合意が契約書等に存在しない場合には、日本の裁判所に管轄は認められるのでしょうか。
以前は、日本の国内法に、国際裁判管轄について定めた明文の規定は存在せず、裁判所が事件毎に、日本の裁判所に管轄があるか?という点を判断していました。その判断は、基本的には民事訴訟法の国内管轄の規定をベースにしつつ、個別具体的な事件に応じて判断するというものが多く、はっきりとした基準が存在していませんでした。
このような事態を危惧したのか、近年、法制審議会においては、国際裁判管轄の立法化作業が進められてきました。そして昨年、国会で、「民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律案」が可決され、国際裁判管轄につき、日本の国内法にも国際裁判管轄についての明文規定が誕生することになりました。なお、この法律は、平成24年4月1日に施行されるため、現時点ではまだルールとして機能していません。
私個人がこの内容を見る限りにおいては、国際裁判管轄につき、条文という形で明確化はされたものの、 第3条の9(特別の事情による訴えの却下)という条文がどのように運用がされるのかが気になるところです。
この条文は、簡単に説明すると、例えば、不動産に関する訴えは、日本に不動産が所在していれば、日本に管轄が認められるという原則的なルールがあったとして、実際にそのような訴えが提起されたとします。このような場合、日本の裁判所に管轄が認められるのが原則です。しかし、このような場合でも、裁判所が、具体的に事案を見て、日本で審理を行うことが不適切であると判断した場合には、例外的に、日本での管轄を認めないことができるという規定です。おそらくこの条文は、過去の判例で用いられてきた「特段の事情」を明文化したものではないかと思います。
次回は、過去の判例がこの「特段の事情」というルールをどのように用いてきたのかという点について解説したいと思います。