今回は、新株予約権についてお話したいと思います。
新株予約権とは、新株予約権者が、会社に対して、ある価格を払い込めば、当該株式会社の株式を受けられるという権利です。
株式の時価と新株予約権の権利行使価格の差額が新株予約権者の利益となりますが、新株予約権の価格はあらかじめ決められていますから、当該会社の株式の時価があがればあがるほど、新株予約権者は利益を手にすることになります。
このような新株予約権は、例えば、取締役や従業員に対するストック・オプションの付与として、またはベンチャー企業など資金力が乏しい企業の資金調達手段として利用されています。前者は業績があがればそれだけ利益を手にすることが出来るので、取締役や従業員のインセンティブとして強く働き、後者は将来の会社の可能性を買ってもらうということになります。
また、新株予約権は買収防衛策としても利用されています。
買収防衛策の導入時は買収者の登場前、つまり平時になされることが原則です。有事における買収防衛策として株主に対する新株予約権の発行が使われた場合は、特定の株主の持ち株比率を下げることが特定の株主を狙い撃ちにすることになり、株主平等原則の趣旨に抵触して許されないのではないかが問題となります。今回は、有事における新株発行の可否が問題となった有名な事件としてニッポン放送事件を紹介します(東京高裁平成17年3月23日決定)。
この事案は、ライブドアがフジテレビ企業の関連会社であったニッポン放送の株式を総議決権の38%近くまで買い占めたため、ニッポン放送はライブドアの買収を阻止するために、フジテレビに対し、発行済株式総数の1.44倍にあたる新株予約権の発行を決議し、これに対してライブドアは新株予約権の発行差し止めの仮処分を東京地裁に申請したという事案です。
裁判所は、有事の場面において、会社の経営支配権を争う株主の持株比率を低下させ、特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権の発行をすることは原則として許されないとしつつも、株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の発行を正当化する特段の事情があり、(会社を食い物にしようとしている場合)なおかつ対抗手段として必要性や相当性が認められる場合には例外的に許される旨述べています。
そして、ニッポン放送の新株予約権の発行には特段の事情は認められず、新株予約権の発行はニッポン放送の権限濫用であると判断されました。