前回までは、過去の事例に照らして、どのような場合に法人格否認が認められてきたかを見てきました。今回からは、やや視点を変えて、新会社を設立するに際して法人格否認を疑わせないようにするための心構え、注意点について触れて行こうと思います。
なお、この連載の最初でも述べたとおり、法人格否認の法理は一般的抽象的なものであり、否認の有無は前例の積み重ねから結論を推測するほかないこととなりますから、こうすれば絶対に大丈夫などとは言えません。以下の内容も推論でしかないため、参考程度に留めておいて下さい。
まず始めに、新旧両会社の分離の程度について考察してみます。
最判昭和48年10月26日は、新旧両会社で商号、代表取締役、監査役、本店所在地、営業所、什器備品、従業員、営業目的に同一性があることを前提に、この場合には「新旧両会社の実質は前後同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用」として、法人格の否認を認めました(民集27巻9号1240頁)。
ここまで新旧両会社に同一性が認められる場合、そもそも何のために新会社が設立されたのか、正当な理由は認めがたいでしょう。
それでは、新旧両会社でどの程度組織を分離させた場合、法人格の否認の恐れはなくなるのでしょうか。
完全に恐れを払しょくするというのであれば、新会社は旧会社と一切の関わりなく、全く新規に設立すべきです。しかし、実際は人員的、資金的な理由その他から、ある程度旧会社のソースを投入する場合の方が多いでしょう。その場合、どうしても一定のリスクはついて回ります。
ただ、法人格が否認されるか否かは、結局のところ法人格の独立を認めることが正義衡平に反しないかという点から判断されるべきです。そのため、新旧両会社でそれなりに諸点の同一性が認められるとしても、それ以外の要因から新会社の設立が正義衡平に反しないと認めうるのであれば、法人格が否認される恐れを低くできる可能性があります。
同一性を認めうる各要因についても、リスクの高低などがあるのではないかと考えられます。次回は、考えられる要因を個別に検討していこうと思います。