1 はじめに

 発起人組合とは、設立企画者間の契約に基づく組合関係をいい、その性質は、民法上の組合であるされています。
 それでは、なぜ発起人組合という概念が必要なのでしょうか。

2 事案の紹介

 Y1からY7は、石炭の販売等を目的とする訴外A社の設立に向けて定款作成等を行い、定款の認証を受けました。その間、Y1からY4は、A社名義でX社から石炭200トンを買い入れる契約を締結しました。
 しかし、X社がY1からY4から受け取った支払方法としての約束手形が不渡りとなりました。
 このような場合、X社はいかにして石炭の売買代金を回収すれば良いのでしょうか。

3 売買代金回収の方法

 まず、設立後のA社に対して石炭の売買代金の支払を請求する方法が考えられます。
 ただ、そのためには、A社の設立中に行ったY1からY4のX社から石炭200トンを買い入れる契約の効果が設立後のA社に帰属することが前提となります。
 しかし、設立中の会社の機関である発起人の行った開業準備行為(ただし、原始定款に記載された財産引受けを除く。)の効果が、設立後の会社に帰属することを否定する判例(最判昭38.12.24)を踏まえると、開業行為に当たる石炭200トンを買い入れる契約行為の効果が設立後のA社に帰属すると考えるのは困難でしょう。
 したがって、設立後のA社に対して石炭に売買代金の支払を請求する方法は採れないといえるでしょう。
 次に、Y1からY4に対して無権代理人の責任を追及することによって石炭の売買代金に支払を請求する方法が考えられます。
 しかし、Y1からY4に石炭の売買代金を支払う資力が十分にない場合も考えられ、X社としては、できれば残りのY5からY7にも石炭の売買代金の支払を請求したいところです。
 そこで、発起人組合という概念が必要になってくるのです。
 民法670条1項は、「組合の業務の執行は、組合人の過半数で決する。」と規定しています。
 本件では、Y1からY7のうち、Y1からY4という過半数の組合人が石炭200トンを買い入れる契約に関与しています。そのため、石炭200トンを買い入れる契約の効果は、発起人組合に帰属し、その組合人であるY5からY7にも及ぶのです。
 ここに発起人組合を認める実益があるわけです。実務上の注意点としては、会社の設立準備行為の取引の相手方となる場合、発起人組合に契約の効果を及ぼすために、発起人の過半数を超える者らと契約を締結しておくべきと考えられます。

弁護士 大河内由紀