マンションの分譲・販売にあたって、よく見かける宣伝文句として、「全戸南向き」というものがあります。日当たりが良いことは、マンションを購入する方は誰もが気にするところでしょうから、購入にあたっての動機になります。
 しかし、マンションを購入したにもかかわらず、実際は南向きでなかったという場合、マンション分譲業者は損害賠償責任を負うのでしょうか。今回は、この点についてお話しさせていただこうと思います。

 事案としては、以下のようなものでした。

 被告であるマンション分譲業者Y株式会社は、マンションの建築・分譲を計画し、パンフレットで、「全戸南面・採光の良い明るいリビングダイニング」などと記載し、同旨の新聞広告、折込チラシを配って宣伝しました。原告であるXら16名は、マンションが完成する前に間取りを確認したうえで購入しました。しかし、本件マンションは、かなり西を向いた状態で完成しました。そこで、Xらは、不法行為責任として、Yのマンションの販売方法が詐欺又は宅建業法に違反する違法なものであると主張し、また、債務不履行責任として説明義務違反があったと主張しました。そして、Xらは、本件損害として、マンションの価格減少損害金、日照減少分損害金、光熱費増加分損害金、慰謝料、弁護士費用を請求しました。

 これに対し、京都地裁平成12年3月24日判決では、以下のとおり判断しました。

 まず、売買契約に付随する信義則上の義務として、売主は不動産売買の専門的知識があるのに対し、買主は素人であるから、売主の情報を信頼するしかないこと、また、不動産は高額であるゆえ、売主には買主の意思決定に対し重要な意義を持つ事実について、不正確な表示を行わないという信義則上の付随義務があるとしました。その上で、マンションの向きは、日照確保の点で重要な意義があるといえ、売主はこの点につき不正確な表示説明を行わないよう注意する信義則上の義務を負うと判断しました。

 本件では、パンフレット等の記載内容に、「全戸南面・採光の良い明るいリビングダイニング」という謳い文句があり、図面を見るとどの戸も真南を向いている印象を与えていたことが認められ、その表示や説明は不正確と言わざるを得ないとされました。

 したがって、Yは、本件マンションを販売するに当たり、その向きについて不正確な表示・説明をしないよう注意すべき義務に違反し、損害賠償責任を負うと判断されました。

 なお、損害の点については、売却時の価格減少分は認められず、日照の減少及び光熱費の増加については、慰謝料に含めて算定されました。
 その上で、Xらの慰謝料として、それぞれ120万円ずつが認められています。