前回は、法人格の濫用に明確な判断基準はないと考えられること、同種事例における判断を参考に結論を推測することとなるであろうこと、その際の判断要素がいくつかに分類されると考えられること、そのうちの一つとして旧会社債権者を害していないかがあるとおもわれることに触れました。
今回は、前回の分類の②、つまり新旧両会社で支配者や取引相手などが同一であるか否かという点について検討を行おうと思います。
会社と言うものは、目的をもって設立されます。それが、新事業の展開など真っ当な目的であるなら、特に法的な問題は生じさせないでしょう。設立後に生じる事業遂行による損得の発生は自由経済の問題になると思われます。しかし、新たな法人格を利用した債務の逸脱など、そこに違法不当な目的がある場合には、法的な規制を及ぼすことで権利者を守る必要が出てくることが考えられます。
これが法人格の濫用における目的要件、つまり会社設立に際して違法不当な目的が認められる場合には法人格濫用が認められ得るとする根拠となるのではないかと考えられます。
さて、新旧両会社で支配者や取引相手などが同一である場合、新会社は何のために設立されたと考えられるのでしょうか。これらが同一である場合、新会社の始める事業は、旧会社でも遂行することができたのではないかと考えるのが一般的でしょう。そうなると、新会社設立の目的を新事業の展開と考えることは難しくなります。
新会社に真っ当な設立目的が認められにくい場合、新会社は何のために設立されたこととなるのでしょうか。会社を目的もなく設立することはないでしょうから、消去法的に違法不当な目的が推認されることになりやすいと思われます。
これが、本人格の濫用の有無を判断するに際して、しばしば新旧両会社の支配者や取引相手などの同一性が論点となる理由であると考えられます。
例えば、東京地方裁判所平成13年1月31日判決は法人格の濫用を認めていない事例ですが、理由において、新会社の従業員は旧会社の従業員と26名中9名しか重複していないこと、取引先は13社中4社しか重複していないことが認定されて結論に影響を与えていると考えられます。