第1 行政上の規制・義務

 宅地建物取引業法は、宅地建物取引業者に対して、多くの行政上の規制・義務を課していることは前回に触れたとおりですが、今回は特に免許制度について説明していきたいと思います。

第2 免許制度について

 宅地建物取引業法(以下「法」といいます。)は第3条で「宅地建物取引業を営もうとする者は、免許を受けなければならない。」と定めており、また、「免許の有効期間は、5年」とし、「有効期間の満了後引き続き宅地建物取引業を営もうとする者は、免許の更新を受けなければならない。」とも定めています。

 仮に、免許がない状態で営業した場合、その者には、「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併料する(法79条)。」とし、厳しい罰則を科すことで免許制度の維持を図っています。

 一方、これらの規制があることで、免許がなくては宅地建物取引業を営むことが規制され、憲法で保障されている、国民の職業選択の自由、営業の自由を制限する一面を持っています。 

 これに対し裁判例では、「無免許営業の禁止規定及び罰則規定が、職業選択の自由に対する制限となるものであることは否めない」としながらも、「無免許営業を放任した場合には、悪質な業者等が不当な取引を行うなどして、一般国民に対し不測の損害を蒙らせ、宅地建物の取引の公正、ひいてはその流通の円滑化を害し、国民生活に多大な影響を及ぼす恐れがあり、公共の福祉に反するところから、これらの弊害を未然に防止する必要がある」とし、「免許制をとり、一定の資格要件を具備する者に限つて営業を行うことができることとし、悪質あるいは不適格な業者が取引に介在することのないように、予めこれを排除するとともに、監督官庁において、その実態を把握し、行政上の監督権を適切に行使することができるようにする必要性と合理性があることは明らかである」(東京高判昭59年12月26日)と判示されており、宅地建物取引業において、免許制度を採用することは合理的な規制であるため、違憲ではないと判断されています。

 一方、無免許業者が、宅地建物取引業に関係する契約を締結した場合、罰則により規制されていますが、私法上の効力については、必ずしも否定されていません。もしも、売買契約等を無効とした場合に、被害を受けるのは、主として売主や買主等の取引関係者であって、無免許業者だけが被害を受けるわけではないからです。

 他方で、無免許業者の仲介によって契約が成立に至った場合、委託者が任意に支払った報酬はともかく、無免許業者が、委託者に対して、報酬請求権を裁判上行使することは許されないと考えられています(東京地判平成5年12月27日他多数)。

 以上の裁判例によれば、契約の効力を否定せずに、報酬請求権の裁判上の行使を制限し、免許制度の維持と取引関係者の保護のバランスを図っているといえそうです。