1.不動産投資と法律

(1) はじめに

 投資物件として不動産を購入しても、賃借人の募集、賃貸借契約の締結、賃貸物件の管理などは、通常、賃貸管理業者に任せます。オーナー自ら行うという場合も稀にはありえますが、ご自分の本業がある傍らで自ら賃借人となってくれる人を探し、家賃を取り立て、物件を管理するというのは現実的ではありません。その意味では、不動産投資に関する法律知識に精通しなければならないのは、不動産のオーナーではなく賃貸管理業者なのですが、オーナーとしてある程度の法律知識を持っておくことは、適切な賃貸業者選びのためにも、また、賃貸業者のパフォーマンスを適切に評価する上でも大事なことだと思います。

 弁護士の立場から観察すると、法的措置に関する方針やそのタイミングに、賃貸管理業者間でかなりのレベルの差を感じます。その賃貸管理業者がどこの法律事務所を利用しているかによってもパフォーマンスにかなりの影響が出ます。したがって、賃貸管理業者にごまかされないためにも、最低限の法律知識で理論武装しておくことは、投資家として賢明な姿勢だと思います。

 ところで、従前は、不動産投資というと、自ら不動産を購入してそれを第三者に賃貸し賃料収入を得るというのが主流でしたが、最近は、ファンドを活用した投資案件も増えております。個人で不動産を購入した場合に比べると、ファンドを活用する場合には、皆さんが法律知識で武装することの重要性はいくから下がると思います。なぜならば、法的リスクも含め、投資利回りに影響を与える事柄は全て投資スキームの中に折り込まれており、どんなに皆さんが法律問題に精通しても、スキーム自体の変更を求めることは不可能と考えられるからです。投資商品は、多数の投資家に対する販売を想定していることから、個別交渉に馴染みません。

 しかし、そうは言っても、皆さんがある程度の法律知識で武装することによって、投資スキームの落とし穴に気づける場合もあると思いますので、ここで不動産投資にかかわる法律知識を皆さんが持つことは決して無駄ではないと思います。

(2) 不動産投資家の法的地位

 投資物件として不動産を購入して不動産のオーナーになると、①不動産の所有者としての地位と、②不動産の賃貸人としての地位を有することになります。

 特に、投資物件として購入した場合に生ずる特有の地位は、言うまでもなく②の賃貸人としての地位ですので、民法が定める賃貸借契約及び借地借家法に関する法律知識、さらにはこれらに関する基本的な判例知識が重要です。

 しかし、不動産という高価な財産を購入するオーナーとして、不動産購入に際して生じる法律関係はしっかり押さえておいてほしいところです。これは、居住目的で不動産を購入した場合にも生じる法律関係ですので、不動産オーナーとしては当然知っておいていただきたい法律です。そこで、投資目的で不動産を購入する者としては、①不動産の所有者としての地位にかかわる法律問題と、②賃貸としての地位にかかわる法律問題の双方を理解することが必要です。

(3) 期限の利益の喪失と遅延損害金

 投資用不動産の所有者としてまず知っていただきたいのは、期限の利益の喪失と遅延損害金です。

 不動産という高価な財産を購入する場合、これを一括で購入する人はほとんどいませんね。通常は、銀行などの金融機関から借り入れることになります。

 そこで、皆さんは、購入資金の借入のために、金融機関との間で金銭消費貸借契約を結ぶことになります。この借入の際の金利に関しては十分気をつけてください。後日、賃料収入を得ても、この金利は不動産投資のコストとなりますので、最終的に皆さんが投資によって得ることができる利回りに大きく影響します。金利の状況をよく見て買い時を検討してください。

 さて、金融機関との間で締結する金銭消費貸借契約書には、通常、いわゆる「期限の利益喪失条項」[1]というものが盛り込まれています。期限の利益とは、分かりやすく言うと、借入金を一括で弁済する必要がなく分割で弁済していけば足りるというものです。この期限の利益を喪失すると、分割弁済が一括弁済義務に変わってしまうので大変です。ローンを組んだはずなのに、残りの借入金債務を一括で弁済する義務を負ってしまうのです。

 それだけではありません。残債務を一括で弁済するなど通常は不可能です。一括弁済を怠ると、それに対して遅延損害金2というのが発生します。遅延損害金とは、要するに、弁済を怠っていることから生じる相手方に対する損害賠償金なのですが、この遅延損害金は、借入金利よりもはるかに高い利率が約定で設定されています。投資利回りなど吹っ飛んでしまうほどのインパクトがありますから、期限の利益の喪失は絶対に避けなければなりません。

 では、どのような場合に期限の利益を喪失してしまうのでしょうか。

 典型的な金銭消費貸借契約書に盛り込まれている約定では、大きく分けると、①弁済の懈怠と②信用不安があります。弁済の懈怠とは、要するに毎月のリーンの支払いを怠ることです。通常の金銭消費貸借契約においては、たった1回の支払いを怠っただけで期限の利益を喪失すると定められておりますので毎月のローンの弁済には十分な注意が必要です。次に信用不安とは、例えば皆さんが自己破産の申立や個人民事再生などの債務整理手続きを行った場合です。このような事実が発覚した場合にも、期限の利益を喪失し金融機関から一括弁済を求められていますので十分注意してください。

 なお、当然ですが、このような事態になれば、金融機関はいつでも抵当権3を実行し、皆さんが購入した不動産を競売にかけることができます。そうなれば、皆さんはせっかく購入した不動産を失うばかりではなく、競売しても返済しきれない多額の借金を残すという最悪の事態になってしまいます。

[1] 典型的には、契約書上、「Aは、第××条に基づく弁済を1回でも怠った場合には、当然に期限の利益を失い、残債務について一括して弁済する義務を負う」などと規定される。なお、内田貴著「民法Ⅰ〔第4版〕総則・物権総論」305頁以下参照。