今回のテーマは前回に続き、企業間取引の最初のステップで目にする秘密保持契約書に関するチェックポイントについてです。
(前回の記事はこちら:秘密保持契約書の契約チェック)
前回、秘密保持契約をチェックする際には、自分が情報を開示する側なのか、開示される側なのか、という点を確認した上で、
① 適用範囲(案件等)が特定されているか
② 秘密情報がきちんと定義されているか
③ 秘密保持義務を負う期間が限定されているか
ということを注意して見ていくとよいということを書いて、①について説明しました。
さて、②については、秘密情報の範囲が不明確だと、相手方から開示された情報はなんでも秘密情報にあたることになってしまうため、定義がどのようになっているかを確認する必要があります。全ての情報を秘密情報として管理することは運用上無理でしょう。望ましいのは、「書面の場合は秘密であることが明示されたもの、口頭の場合は開示後○日以内に秘密である旨書面で明示されたもの」等、明確に限定することですが、最低限、「○○の件に関して」という限定は必要でしょう。
また、③についても、開示される立場であればできるだけ短く、開示する立場であればできるだけ長くするように交渉すべきです。私が見た範囲では、「本件終了後」「情報開示後」「本契約終了後」等と始期を定めた上で2年から3年と定めている契約が多いように思います。実際の運用を考えても、案件が終了して3年以上経ってしまえば、プロジェクトも解散され社内体制も変わって、秘密情報を管理することは困難となるでしょうから、特に自分が義務を負わされる側であれば、長くても3年以内とすべきだと思います。
ところで、秘密保持契約に「本契約の義務に違反した場合は契約を解除できる」という趣旨の条文が置かれている場合がありますが、これは意味のない条文だと思います。秘密保持契約の義務とは要するに「情報を秘密に保持する」ことに尽きるのであって、秘密が漏れてしまった場合には契約を解除して原状に復することもできないわけですから、その場合には損害賠償で解決するしかないと考えられます。ちなみに、通常、秘密保持契約の損害賠償責任は限度額なしと定められることが多いため、情報漏洩には本当に気をつけなければいけません。
なお、企業の中で秘密保持契約書のチェックを何件も行って感じたのは、案件の正式契約前に結ぶ秘密保持契約書についての最大のリスクは、細かい条項の交渉に時間をかけて正式契約ができないことではないかということでした。とりあえず、契約書として大事なポイントとして上記の三つぐらいですから、そこだけチェックしてあとは基本的にそのままスルーしてさっさと結ぶのが正解、というのが個人的な感想です。もちろん契約書としてはリスクは多少は残るかもしれませんが、完璧な秘密保持契約書を作る時間があれば、さっさと本契約を結んで売上を上げて、情報管理については、開示する側であればなるべく情報を開示しないこと、開示される側であれば、開示された情報を適切に管理すること、という実運用をしっかり整えることに注力した方がはるかに会社の利益になるだろうと思います。
弁護士 堀真知子