前回は、不動産賃貸における仲介業者の役割のうち、賃貸人に関する注意事項を説明しましたので、今回は、賃借人及び対象物件について説明しようと思います。
前回もご説明したとおり、重要事項説明等に必要な説明の対象は大まかに言ってしまえば3点です。賃貸借契約の当事者である、①賃貸人及び②賃借人、そして、賃貸借契約の目的物である③賃貸物件についてです。
賃借人について
賃借人に関しては、原則として、賃借人の身元や職業等については、賃借人からの申し出のあった事項を賃貸人に報告することで足りると考えられています。例外的に、申出事項に疑問があるような場合は、対処する必要があると考えられますが、仲介業者といえども、賃借人の身元が正確か否か等については、調査する能力も限界がありますし、仲介業者が可能な方法で適切に対処することで足りるものと考えられます。
しかし、賃借人の身元や職業及び収入等に誤りがある場合、賃貸借契約が正常な状態でなくなった場合(例えば、連絡が取れない状況が継続する場合や賃料の支払が正常に行われなくなった場合)に、賃貸借契約の解消や賃料の回収に支障をきたす可能性がありますので、賃借人の申し出に疑問点があれば、慎重な審査を行うべきでしょう。
目的物件
仲介業者は、賃借人が契約の目的を達成するために必要な事項については、民事上の説明義務を負う場合があります。
賃貸借契約においては、賃貸物件の使用目的について定められることがほとんどと思われます。通常の居住の目的が達成できない場合ということはあまり考えられませんが、店舗として利用する目的がある場合は特に注意が必要です。店舗としての利用については、建物自体の性能や許認可等の条件が整うことなど、様々な要素が契約の目的達成にとって必要な事項となってきますので、仲介業者として容易に知りうるような事項については説明する義務が生じます。
但し、これらの場合は、賃借人自身が詳細に調査すべき事項でもありますので、仲介業者としての責任は、目的達成が不可能であることを知り、又は容易に知ることができた場合に限っている裁判例もあります。
また、最近、自殺等があった物件について、仲介業者として負担する説明義務の範囲が問題となっている例が見受けられます。
裁判例では、
「一般に、不動産媒介業者は、宅地建物取引業法上、賃貸目的物の賃借人になろうとする者に対して、賃貸目的物に関する重要な事項を告知すべき義務があるというべきであり、賃貸目的物に関する重要な事項には、賃貸目的物の物理的欠陥のほか、賃貸目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥も含まれるものと解される」
として、心理的欠陥も説明義務に含まれると判断しており、自殺等の事情も説明義務の範囲に含まれる可能性があります。
しかし、一方で、5年以上前の自殺で報道等もなく、周囲にも知られていない場合などでは、説明義務を一切否定する例もあれば、世間の耳目を集めていなかったとしても、少なくとも自殺者の次に入居する賃借人に対しては説明義務があるとする例もあるなど、説明義務の範囲は一定していません。
心理的欠陥に関する説明義務の範囲は、非常に繊細な問題であり、一義的な判断は困難ですが、こういった物件を扱う際には、当時の状況等を把握した上で説明すべきか否か慎重な判断が求められるといえそうです。