1 なぜ契約書を作るのか

 どんな契約書にも作るからには目的があります。様々な目的が考えられると思いますが、どの契約書にも共通するのは、当事者の間での約束を明確にしておき、後日の紛争を防止することでしょう。

 しかし、この目的を果たすためには、単純ですが注意しなければならないことがいくつかあります。

2 契約当事者が誰であるか

 契約書を作成する際には、基本的には2者以上の関与があります。誰と誰の間の約束であるのかは必ず明確にしておかなければなりません。

 実態にそぐわない当事者を契約書に記載した場合や代理人であるのに誰の代理人であるのか明らかにしていない場合など、契約当事者が誰であるのか不明確になるので注意が必要です。このようなことがあると、せっかく契約書を作成しても、紛争を防止できないおそれがあります。

 契約当事者には本人に署名又は記名・押印して頂く方が後の争いを避けるためには良いと思います。代理人である場合には、委任状を確認し、誰の代理人であるか契約書上も明らかにしたうえで代理人名を署名又は記名・押印してもらいます。

 また、契約当事者以外の第三者について義務を定めたとしても、原則として、第三者を拘束することはできませんので、義務を負担してほしい第三者(典型的な例は保証人です。)には必ず当事者として署名又は記名・押印をして頂いた方が良いと思います。

3 当事者が負う義務が明確であるか

 契約当事者が明確であっても、当事者がいつ又はどんな場合に、どのようなことをしなければならないのかについて明確でなければ紛争が生じる原因となります。

 金銭の支払義務を定める場合であれば、誰が誰に支払うのか、その金額、支払時期又は支払条件、支払方法などが明確でなければならないでしょう。

 さらに、物の引渡債務や賃貸借契約などでは、対象となる物、物件等が確定していなければなりません。

 これらの点が明確でない又は取引の実態とずれている場合には、契約書が紛争予防の役に立たないおそれがあります。

4 契約内容の変更について

 最初に契約書を作成したものの、その後実態が変わってしまい、契約書を再度作成していない場合があります。
 例えば、賃貸借契約の賃借人が変わったけれども、元々同居者であった人なので、わざわざ契約書を作成していない場合や、賃料が当事者の間では変更されているけれども契約書を作成していない場合などがあります。

 これらの場合は、契約書を作成しておかなければ、最初に作成した契約書だけでは後日の紛争防止に十分とはいえないと思われます。  賃貸人や賃借人が交代するなど、契約当事者に変更が生じた場合は、以前からの契約当事者と新たな契約当事者の全員で、契約当事者の変更について契約書や確認書を作成しておく方が良いと思います。

5 まとめ

 契約書は、当事者間の法律関係を明確にするために最も有効な証拠となると同時に、実態にそぐわない契約書が存在する場合は、逆に最も反証が困難な証拠となる可能性があります。
 実態に則した、内容が明確な契約書の作成を心がけることが大切だと思います。