こんにちは。
 前回は、所有権留保の付いた車の買主が破産してしまった場合、その車の代金の債権者はどのような権利を行使することができるかについてお話ししました。この点については、別除権(破産債権者が、破産者の財産のうち破産債権者が担保権を有していた特定の財産から、破産手続によらずに優先的に弁済を受けることができる権利)と取戻権(破産手続開始前から第三者が破産者に対してある財産を自己に引き渡すことを求める権利を持っている場合には、破産手続き開始後も第三者はその権利を主張して財産の引き渡しを求めることができるという権利)のうち、どちらを行使することができるかという問題がありましたが、別除権を行使することができるということをお話ししました。

 これと似たような問題が、ファイナンス・リース取引についてもあります。
 ファイナンス・リース取引とは、リース取引のうち、リース契約に基づくリース期間の中途において当該リース契約を解除することができないもの又はこれに準ずるもので、当該リース契約により使用する物件(以下「リース物件」といいます。)の借主が、当該リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じる費用等を実質的に負担することになるものをいいます。

 皆様の会社でも、コピー機などのオフィス機器やその他業務に必要な機械などをファイナンス・リースで使っていらっしゃることと思います。
 これらのリース物件のリース料を支払い終えないうちにユーザーが破産や民事再生手続などの倒産手続に入ってしまったら、債権者たるリース会社はどのような権利を行使することができるでしょうか。

 この点についても、前回の所有権留保付き物件の買主の破産の場合と同じく、そもそもリース物件の所有権が誰にあるのか、という疑問が生じます。この点について争われた次のような事案があります。

東京地裁平成15年12月22日判決

事案

 リース会社Xは、Yとの間でファイナンス・リース契約を締結し、リース物件を引き渡しました。この契約には、借主の信用状態が著しく悪化した場合、貸主はリース物件の返還を請求することができる旨の特約が付されていたところ、Yが民事再生開始決定を受け、リース料の支払いが滞りました。
 そこでXは、Yに対し、所有権に基づきリース物件の返還を請求しました。

判決

① Xはリース物件に対して所有権を有するがその行使は制限されており、担保権(別除権)を行使できるのみである。
② その担保権の目的はリース物件の利用権である。
③ しかし、その別除権行使後は、リース会社にリース物件の完全な所有権が帰属するから、その所有権に基づきリース物件の返還請求ができることになる。

 民事再生とは、債務者の財産を基礎にして債務者の再生を図る手続ですので、やはり、債務者の所有する財産かそうでないかは問題となります。
 本判決においては、リース会社は所有権を有するとされましたが、その所有権は借主に利用権を与えている分制限されるため、民事再生手続上行使できる権利は、まず第一段階としては、別除権であるとされました(①)。
 そしてリース会社が有する担保権は、ユーザーの有するリース物件の利用権を目的とするものであり(②)、別除権の行使は利用権をユーザーからリース会社に移転させることによって行うこととなります。
 これによりリース会社には何ら制限のないリース物件の所有権が帰属することになるので、第二段階として、取戻権を行使することができることになります(③)。
 本事案では、第一段階の別除権は本訴訟前に行使されていたとされ、本判決によって、第二段階の取戻権に基づきリース物件の返還請求が認められました。

 (なお、本事案における「借主の信用状態が著しく悪化した場合、貸主はリース物件の返還を請求することができる旨の特約」の効力は、後に別事件の最高裁平成20年12月16日判決において否定されました(1月19日の弁護士日向のブログ参照。)ただし、借主の債務不履行があるので、リース契約を解除して別除権、取戻権を行使することが考えられます。)

 前回の所有権留保にしても、今回のファイナンス・リースにしても、「所有権が誰にあるのか。」などと普段はあまり考えないですよね。でも、所有権留保もファイナンス・リースも身近な取引なのに、改めて考えると複雑だと思いませんか。