マンションにおける被告の行為が、建物の管理又は使用に関し、区分所有者の共同の利益に反するものに該当し、かつ、将来、同種の行為に及ぶ危険性が高いとして、建物区分所有等に関する法律59条1項に基づく区分所有権及び敷地利用権の競売申立を認容した事例

 今回は、原告から、被告に対して、被告が区分所有法6条に反し、建物の管理又は使用に関して区分所有者の共同の利益を反する行為をし、かつ将来も同種の行為に及ぶ危険性が高いとして、被告の有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権(以下「本件区分所有権等」と総称する)の競売を求めるとともに、別紙「管理費・水道使用量一覧表」記載の金員が未払いであるとしてその支払いを求めている事案をご紹介します。

 本件の事案の概要は、おおむね以下の通りです。

 原告は、平成19年12月19日、区分所有法47条に基づき設立された管理組合法人であり、物件目録記載の一棟の建物(以下「本件マンション」という)の表示記載の区分所有建物及び敷地並びに付属施設の管理を行うための団体である。
 被告は、本件区分所有権等を所有している者である。

 原告は、被告が、本件マンションの管理又はしように関して、区分所有者の共同の利益に反する行為をしたことを理由に、原告の臨時総会において、被告の有する本件区分所有権等を競売請求を行うことを特別決議により可決した。また、原告が負担すべき管理費、維持費、修繕積立金及び水道使用料等も明示的に請求しました。被告は、これらを争いました。

 本件についての裁判所の判断は、おおむね以下のようです。

 証拠によれば、以下の事実が認められる。

① 被告は、ベランダから瓶等を投下したのを本件マンションの他の居住者らに目撃されているほか、平成14年頃からは夜間に他の区分所有者らの玄関ドアを多数回にわたって蹴飛ばしたり、チャイムを鳴らし続けたり、罵声を張り上げたりしたことがあり、本件マンションの管理人はその都度現場に出向いて制止したり注意したりしたが、被告の行動はやまなかった。本件マンションの管理人には、本件マンションの住人のみ成らず近隣のマンションの住人からも、被告に関して同様の苦情が複数回にわたり寄せられている。

② 平成15年7月中旬頃、被告方の玄関先で被告と被告方への訪問者との間で騒動となり警察が呼ばれる騒ぎになったが、その後被告方には暴力団関係者とおぼしき人物が現れ、怒声を張り上げたり、ドアを激しく殴打するなどしたことがあった。

③ 被告は、平成11年4月以降本件マンションの管理費等を支払っておらず、督促にもかかわらず、その後も管理費等の支払いをしていない。

④ 被告は、平成18年10月中旬、本件マンションの玄関ロビー(エントランスホール)に管理者に無断で絵画を展示し、これを注意したAに対し、同人の首を突く等の暴力を加えて加療約1週間を要する頸部挫傷の障害を負わせたほか、同じ頃、本件マンションの被告方に女性を連れこみ、同女に対し「殺してやるよ」などと脅迫してわいせつ行為を行い、その際全治約1週間を要する頸部挫傷の障害を負わせたため、傷害罪及び強制わいせつ致傷の罪でB地方裁判所に起訴され、同19年6月18日懲役3年6ヶ月に処する旨の刑の宣告を受けた。その後、被告はC刑務所に収容されて服役中である。

⑤ 上記のような経緯から、本件マンションの区分所有者とその家族には被告に対する畏怖困惑を訴える者が増えた。これを受けて、原告は、平成20年4月22日付けご通知(ご弁明催告のお知らせ)により、C刑務所で受刑中の被告に対し、区分所有法59条に基づく競売請求を行うことにしたので同年5月12日までに弁明を書面で提出してほしい旨を通知しようとしたが、被告は同通知の受領を拒絶した。

⑥ 平成20年6月8日、原告の総会において、本件区分所有権等の競売請求を申し立てることが特別決議により可決された。

 上記によれば、被告は、④に継起したような傷害罪・強制わいせつ罪に該当する犯罪行為を犯したばかりか、他の区分所有者らに対して夜間に大声を張り上げる等の威嚇的行為をしたり、他の区分所有者やその家族らの平穏な生活を妨害する種々の行為にお世敏でいたものであることが認められる。

 これらの行為は、他の区分所有者やその家族らの平穏な生活を妨害して生活上著しい障害を及ぼしたものと評価せざるを得ない。また、被告の行為は本件マンションの価値、評判をも提言せしめる危険のある行為であると解されるところ、被告のこれまでの対応等から窺うかぎり、被告には、自己の行為を真摯に反省したり問題解決のために原告と話し合おうとする姿勢があるとは考えられず、被告が将来同種のトラブルを引き起こす可能性は決してないとはいえない。

 しかるところ、区分所有法59条にもとづく競売請求を認めることは義務違反者の区分所有権の剥奪という厳しい効果をもたらす者であることに鑑みると、その判断は十分慎重になされるべきであるとしても、本件事情の下では共同生活上の障害を回避するために他に相当な方法があるとは解されないから、競売請求を認めることもやむを得ないというべきである。

 管理費等の支払い請求についても、正当であってこれを是認できる。

 本件は、被告である区分所有者が、犯罪行為(懲役刑で実刑に処されるレベル)を行うなどしたことを理由に、区分所有法59条に基づく区分所有権の剥奪を認めたというものです。
 区分所有法59条というのは、著しく問題を起こした区分所有者の区分所有権を剥奪するという厳しい処分を定めた規定であるため、判決も、本当に同条に基づく処分を認めて良いか、「慎重に」検討する必要がある、としながらも、結論的には原告の主張を容れて同条に基づく処分を認めました。
 確かに、上記で認定された各事実(特に④)は、他の区分所有者に与える恐怖は大きいと思われ、判決の結論に至るのもやむを得ないものと考えられます。

 迷惑行為がすぎる区分所有者に対しては、他の区分所有者ないし管理組合等は、本件のように、区分所有法59条に基づく区分所有権の剥奪を検討されてもよいかもしれません。