こんにちは。
 これをお読みの方々の中には、仕事上、手形取引を日常的に行っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 手形の取引においては、振出人の破産は怖いもの。振出人が破産してしまえば、その手形金の回収ができなくなってしまう恐れがあります。
 手形の取引においては、手持ちの手形を銀行で割り引いてもらうこともありますよね。
 たいてい、銀行は、この銀行での割引について、手形振出人が破産したときは、手形の割引を銀行に依頼した人(以下、「割引依頼人」といいます。)に手形の買戻しを求めることができ、この場合、割引依頼人には手形買戻債務が発生するという条項(以下、「買戻条項」といいます。)を定めています。
 手形振出人の破産時に、この買戻条項に従って割引依頼人による手形の買戻しがなされれば、割引依頼人は手形振出人に対して手形債権を有することになります。ただ、この手形債権は破産債権となるので、破産手続の中で破産財団の中から債権回収することになります。これでは、手形債権の一部の配当しか受けられない可能性が高いです。

 他方、銀行には、割引依頼人に対し買戻条項に基づき買戻しを求めない、という選択肢もあります。この場合、銀行は、銀行が破産者に対して有する手形債権と破産者が銀行に対して有する預金債権とを相殺するという方法(これを「同行相殺」といいます。)をとることになります。
 後者の方法を採った場合、割引依頼人は、割引の時点ですでに手形債権を全額回収しているので、他の債権者を排して優先弁済を受けたのと同じ効果を受けていることになります。また、割引依頼人は、手形債権の一部の配当しか受けられないというリスクを回避できることになります。
 しかし、これについては、このようにして割引依頼人を有利に扱うのは不公平ではないか、とも考えられます。
 この点について判断した次のような判例があります。

最高裁昭和53年5月2日判決

事例

 A銀行が、B振出しの手形αをCから割引いたところ、Bが破産してしまったため、BがA銀行に対して有していた預金債権とA銀行のBに対する手形債権とを相殺した。  そこで、Bの破産管財人は、AはCに対して買戻条項に基づき買戻しを求めるべきであったのにせずCは手形αの債権全額を回収できたのだから、手形αの債権額とその破産財団からの配当額(配当率5%との見込み)との差額は、Cの不当利得であると主張した。

判決

 Cの利得とBが相殺によって預金債権を失った損失との間には、民法703条に予定する因果関係がないとして、不当利得の主張を否定した。

 このように、割引依頼人が得た利益は不当利得とはならず同行相殺は許容されると、最高裁が初めて判断しました。
 ですから、皆様がお持ちの手形を銀行で割り引いてもらうのなら、振出人が預金債権を持っていそうな銀行で割り引いてもらうのがよいと考えられます。