今回は、建物の区分所有に関する法律17条2項に基づき職務を行うに適しない事情ありとしてなされた区分所有者側からなされた管理者の解任請求が認められた事例についてご紹介いたします。
東京地裁昭和53年1月26日判決
本件の事案の概要は、おおむね以下のようです。
マンション(以下「本件マンション」という)の管理者Yは、本件マンションの建築のためにその所有する敷地を賃貸しました。その後、Yは本件マンションの管理者に選任されました。
Yは、エレベーターなどの共用部分の補修を放置したり、管理費の収支を明らかにしなかったり、管理費の増額を請求したりしました。そこで、マンションの区分所有者Xらは、Yに対して管理者からの解任を請求したというものです。
本件の争点は、本件マンションの管理人であるYに管理者からの解任事由があるか否かという点でした。
裁判所は、以下のとおり判示しました。
区分所有建物である本件マンションの管理人たる被告は、共用部分を保存し、本件管理委託契約に定められた管理業務を善良なる管理者の注意義務をもって誠実に履行すべき義務を負い、かつ、少なくとも毎年1回一定の時期に区分所有者に対してその事務についての報告をなすべき義務があるというべきである。
前認定の事実関係によれば、被告は本件マンションの管理について、当初の間は共用部分の清掃、エレベーターの保守について一応の管理はこれをしていたと認めるものの、補修を要する共用部分についてはこれを放置してその保存を怠っていたほか、管理事務については区分所有者の要求があってもなお一度もその報告をせず(証拠〔省略〕によれば、被告は本訴提起後である昭和52年2月24日ころ、自治会に対して本件マンションの管理費として月額52万円を要する旨の通知をしているが、右内容は前認定の被告及び自治会による管理の実績と対比して到底信用できず、その記載の形式からみても管理事務の報告に値しない)、さらには本件マンションの敷地賃貸人たる地位を兼併していることから、地代を増大させることによって管理費の内容を不明確ならしめるのみならず、地代・管理費の支払いに関して区分所有者との間に徒に抗争を深めている事情が認められる。
したがって、被告には管理者としての共有部分の保存義務、管理事務の報告義務に反する債務不履行がある上に、土地賃貸人と管理者の地位を兼併することによる弊害が著しく、しかもこれによって区分所有者との信頼関係が失われてその回復が困難な状況にあるとみられるから、もはや本件マンションの管理者としてその職務を行うに適しない事情があるというべきである。
なお、被告は本件管理委託契約が請負に属するからその事務の報告義務はなく、また右契約によって被告の承諾なくして管理者を変更できない特約があると主張するが、右報告義務は、管理者たる地位が各区分所有者との契約関係に由来するかあるいは集会の選任手続に由来するかを問わず、建物区分所有等に関する法律に基づいて管理者たる者が区分所有者に対して負担する義務というべきであり、本訴における管理者の解任請求が、同法17条2項に基づいてなされた裁判所に対する請求である以上、右主張もまた理由がない。
判決は、上記のとおり判示して、被告は本件マンションの管理人から解任されると判断しました。
本件は、区分所有法にもとづく区分所有不動産の管理を怠っている管理人に対して、区分所有者からの解任請求を認めたというものです。
「区分所有者の管理人」の地位からの解任、というのは、相当重い処分であるといえますから、相当程度の管理の懈怠がないと、直ちに解任ということは認められづらいようにも思われますが、本件の場合は、管理人の義務の懈怠が相当程度重いものと認定されたようです。
ちなみに、本件での管理人は、本件管理が民法上の「請負」であることを根拠とする反論を行っているようですが、当該分野(この場合は、区分所有建物)に関する特別法がある場合には、裁判所を巻き込む紛争になった場合には、特別法の定めが優先されることはほとんど争いのないところです。特別法・新法・法改正の動向には、十分ご注意ください。