今回は、標記のとおり、マンションの総会決議によって、区分所有者であってその専有部分に居住しない「不在組合員」が住民活動協力金を負担すべきとされた事例において、一部の不在組合員がこの住民活動協力金の支払いを拒んで、かかる協力金の支払いは「区分所有法31条1項後段にいう「規約の変更(中略)・・が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」にあたるとして、住民活動協力金の支払いを決議した総会決議自体が無効であると主張した事例についてご紹介いたします。

最高裁判所平成22年1月26日判決

 本件で、事実審(最高裁判所以前の、第1審と控訴審を指す)において認定された事実は、おおむね以下のようです。

 本件は、マンションの管理組合である上告人が、その組合員である亡A(原審口頭弁論終結後に死亡)の相続人である被上告人らに対し、集会決議により変更された規約に基づき、同規約上、自らその専有部分に居住しない組合員が負担すべきものとされた月額2500円の「住民活動協力金」及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

被上告人らは、上記の規約の変更は、建物の区分所有に関する法律31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し、亡Aの承諾がないから無効であるとして、上告人の請求を争っている。

 この事件の原審の判決(高等裁判所の判決)では、本件規約の変更は、無効であるとしました。理由としては、本件の「住民活動協力金」は、不在組合員と居住組合員との間に格差をもうけて負担させるものであるから、不在組合員であるがために避けられない印刷代、通信費などの出費相当額を不在組合員に加算して負担させる程度であればともかく、その全額を不在組合員のみに負担させるべき合理的な根拠は認められない。(したがって、月額2500円という住民活動協力金は、高額過ぎて合理性を欠くという趣旨と思われます)

 これに対して、最高裁判所は、本件について、概要以下のように判示して、原審の判決を覆しました。

 本件マンションでは、不在組合員が増加し、総戸数868戸中約170戸ないし180戸が不在組合員の専有部分となり、それらの不在組合員は、上告人の選挙規程上、その役員になることができず、役員になる義務を免れているだけでなく、実際にも、上告人の活動について日常的な労務の提供をするなどの貢献をしない一方で、居住組合員だけが、上告人の役員に就任し、上記の各種団体の活動に参加するなどの貢献をして、不在組合員を含む組合員全員のために本件マンションの保守管理に努め、良好な住環境の維持を図っており、不在組合員は、その利益のみを享受している状況にあった・・・。

 いわゆるマンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は、本来、構成員である組合員全員が平等に負担すべき者であって、上記のような状況の下で、上告人が、その業務を負担することが一般的に困難な不在組合員に対し、本件規約変更により一定の金銭的負担を求め、本件マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平を是正しようとしたことには、その必要性と合理性が認められないものではないというべきである。

(中略)

 そして、本件規約変更により不在組合員が受ける不利益は、月額2500円に住民活動協力金の支払い義務の負担であるところ、住民活動協力金は、全組合員から一律に徴収されている組合費とともに上告人の一般会計に組み入れられており、組合費と住民活動協力金とを合計した富士組合員の金銭的負担は、居住組合員が負担する組合費が月額1万7500円であるのに対し、その15%増しの月額2万円に過ぎない。

 上記のような本件規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較考量し、加えて、上記不利益を受ける多数の不在組合員のうち、現在、住民活動協力金の趣旨に反対してその支払いを拒んでいるのは、不在組合員が所有する専有部分約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員に過ぎないことも考慮すれば、本件規約変更は、法66条、31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないというべきである。

 したがって、上告人の請求は理由があるから、これを認容した第1審判決は正当であり、本件控訴は棄却すべきである。(筆者注:「上告人の請求は・・・」以降原文ママ)

 上記のとおり、最高裁は、結論として、不在組合員に対して月額2500円分の多くの負担を求める規約の改正は有効であると認めました。

 理由については、上記に判示してあるとおりですが、まとめると、①不在組合員はマンションの管理に具体的に貢献できないから、不在組合員と居住組合員の間に差をもうける(不在組合員により多くの負担を求める)ことには必要性及び合理性が認められる、②月額2500円の追加負担は問題とするほど多額とはいえない、ということのようです。

 分譲マンションを購入したものの、自身は転居してしまっているという「不在組合員」には、マンションを購入する人全てが該当する可能性があります。自分の問題となってみれば、こうした「不在組合員」への追加費用負担についても、最高裁まで争うほどの重大事であるということになるのかもしれません。
 ただ、居住しなくなったマンションを売却せずに保有し続けられる人は、それなりに経済的に成功している人が類型的には多いと思われるという点も、上記の判断に影響を及ぼしたと思われます。

 もっとも、個人的には、少なくとも不在組合員から賃借して現実に当該マンションに居住している住民がいる場合には、その住民にも管理の一翼を担ってもらうような仕組みづくりが考えられても良いのではないかとは思います。(「不在組合員」から賃借人に対して、その専有部分の管理の義務を代行を委任するなど)このようにすれば、「不在組合員」に対して追加的な金銭負担を求めなくてもすむのではないでしょうか。