第1 はじめに
前回は、会社更生手続が開始した場合に発生する法的効果等について概説し、その際の注意すべき点や他の手続と異なる会社更生手続上の特徴などについてお話ししました。
今回は、企業再建を進めて行くにあたり、事業譲渡や経営陣の責任追及など、避けては通れない事柄や更生債権・更生担保権といった基本的事項にも触れてみようと思います。
第2 事業譲渡
更生会社の事業譲渡は、更生手続開始後には、原則として更生計画の定めによらなければ行うことができないとされています(会社更生法46条1項本文)。
しかし、事業譲渡は、会社の再建にとって極めて重要な要素であり、その時期を逸することにより、再建自体を危うくする事態だって生じかねません。したがって、法は迅速な事業譲渡の要請にも応えるべく、例外規定を置いています。
1.裁判所による許可
すなわち、裁判所が知れている更生債権者又は更生債権者委員会、知れている更生担保権者又は更生担保権者委員会、労働組合等の意見を聴いた上で、必要と認めて許可した場合には、例外的に事業譲渡が認められることになります(同条項ただし書)。
2.公告・通知
上記例外的場合、管財人は、事業譲渡の相手方、時期、対価、対象、反対の意思あるときは管財人に通知すべき旨を公告又は株主に通知しなければなりません(同条4項)。
第3 役員に対する責任追及
1.役員責任査定決定手続
特定の取締役等のずさんな経営で、更生手続が行われるまでに至ったような場合、その役員に対する損害賠償請求権等は会社にとって重要な財産となるため、通常の訴訟手続によることなく、簡易な手続で責任追及するための制度が設けられました。
すなわち、管財人は、原因となる事実を疎明して、役員責任等査定決定の申立をすることができます(会社更生法100条2項)。
そして、裁判所は、更生手続開始決定後に、更生会社の役員(発起人、取締役、執行役、監査役、清算人)に対する損害賠償請求権、株金払込請求権等が存在し、かつ必要と認めるとき、同請求権の額・内容を査定できます(同条1項)。
もし、役員責任等査定決定に不服があれば、その者は送達を受けてから1か月以内に異議の訴えを提起する必要があります(同法102条1項)。
2.保全処分
裁判所は、更生手続開始決定後に、必要と認めれば、役員に対する損害賠償請求権等を保全するため、役員の財産に対し保全処分をなしうるとされています(同法99条1項)。責任を負うはずの役員が先手を打って、主要な個人財産を処分したり、隠匿しようとするのを防止するためです。
第4 更生債権
更生債権とは、更生手続開始前の原因に基づいて更生会社に対して生じた財産上の請求権又は更生手続開始後の利息・損害賠償請求権等であり、更生担保権又は共益債権にあたらないものをいいます(同法2条7項)。
1.優先的更生債権
優先的更生債権は手続内の優先に止まる点において、手続外での行使が認められる民事再生手続における一般的優先債権(民事再生法122条)と異なっています(会社更生法168条1項2号)。2.劣後的更生債権
会社更生手続においては、破産手続における法定劣後的債権のようなものはなく、手続開始後の利息請求権・不履行による損害賠償請求権、更生手続参加の費用請求権、租税等請求権、更生手続開始前の罰金等請求権も議決権が否定されたり(同法136条2項)、更生計画で別段の定めをされる可能性があるだけです(168条1項ただし書)。
ただ、約定で劣後的更生債権を定めることができます。すなわち、更生債権者と更生会社の間で、特定の債権について、更生手続開始前に、当該会社につき破産手続が開始されたときの配当順位を劣後的破産債権に後れる旨の合意をすることができるのです(43条4項1号)。
第5 更生担保権
1.意義
まず、更生担保権が担保権自体を意味するのではなく、担保権の付いた債権を指すものであることには注意が必要です。
すなわち、更生担保権とは、更生手続開始時に会社財産上に存する特別先取特権、質権、抵当権、商事留置権で担保される範囲における被担保債権であり、更生手続開始前の原因に基づいて生じたもの又は開始後の利息請求権等によるものをいいます(同法2条10項)。
なお、譲渡担保(判例)、所有権留保、仮登記担保(仮登記担保法19条3項)も更生担保権における担保権となりますが、民事留置権は除外されています(会社更生法2条10項)。
2.会社更生法上の保護の程度
破産・民事再生手続においては別除権とされる担保権といえども、会社更生手続では手続内に取り込まれ、更生手続に服することになります。会社更生手続は、会社の再建に広く利害関係人の協力が必要となるためです。これは会社更生法上の最も大きな特徴といえる部分でもあります。
もっとも、更生計画策定段階においては、更生担保権を最優先順位に置き、その順位を考慮して公正かつ衡平な差を設けなければならないとされています(同法168条3項)。
3.更生担保権の範囲
更生担保権となるのは、担保権で把握されている目的物の価額を限度とするため、その価額を超えた部分の債権は更生債権となります。そして、担保目的物の価額の評定は、時価をもって行うとされ(同法83条2項)、更生会社の事業継続を前提とした企業価値ではなく、処分価値によるとされています。