こんにちは。
 前回(3月30日)、賃借人が破産した場合の賃貸借契約の処理についてお話しましたので、今回は賃貸人が破産した場合について、特に敷金返還請求権がどうなるのか検討してみたいと思います。

 前回お話したように、賃貸借契約は、賃貸人の賃借人に目的物を使用収益させる義務と賃借人の賃料支払や目的物返還の義務が向い合っており、賃貸借契約中にどちらかが破産すれば、賃貸借契約の残りの期間について両者の義務が残っているので、双方未履行の双務契約となります。

 破産法56条1項によれば、賃貸人が破産した場合において、賃借人が対抗要件を備えているときは破産法53条1項及び2項の適用は排除されます。
 賃借人が第三者に自己の賃借権を対抗できるときとは、たとえば、賃借権について登記しているとき、賃借した土地の上に賃借人が登記されている建物を所有しているとき、建物の賃貸借においてその建物の引渡しを受けたときなどです。
 破産法53条は、これまでお話している双方未履行の双務契約について、管財人に契約を解除するか、あるいは破産財団として債務を履行して相手方の債務の履行を求めるかの選択権を認める規定です。
 したがって、賃貸人が破産した場合、賃借人が登記などの対抗要件を備えていれば、破産管財人は賃貸借契約を解除することができず、賃借人の有する請求権は財団債権となります(破産法56条2項)。つまり、賃借人は使用収益を続けることができます。

 賃借人の有する請求権として通常考えられるのは、上述のように目的物を使用収益させるよう求める権利や修繕を求める権利です。
 建物賃貸借の場合、契約時に敷金を入れることが通常ですが、この賃借人の敷金返還請求権は賃貸借契約とは別の敷金契約に基づくものなので、賃貸借契約に基づく権利とはみなされず、破産法56条2項にいう「相手方の有する権利」には入りません。

 会社更生の事案ではありますが、東京地裁平成14年12月5日判決(金判1170号52頁)(賃貸人に更生手続が開始され、更生管財人によって賃貸借契約の履行が選択されたことから、賃借人が敷金返還請求権が共益債権であることの確認を求めて提訴した事案)も、賃借人の敷金返還請求権は、優先・随時弁済を受ける共益債権(民事再生法121条)ではなく、更生計画に従って弁済される更生債権(会社更生法47条1項)であるとの判断を示しています。

 したがって、賃料の不払いによる解除などによって賃貸借契約が終了した場合、敷金返還請求権は、破産手続開始決定前の原因に基づく債権として破産債権(破産法2条5項)となり、破産財団から配当を受けることとなります。

 民事再生の場合も、破産法56条が準用されるので(民事再生法51条)、賃借人が登記その他の対抗要件を備えていると賃貸人は民事再生法49条を根拠として賃貸借契約を解除することはできません。そして、賃借人の有する請求権は共益債権となり(会社更生法61条4項)、破産の場合と同じように、目的物の使用収益を継続することができます。

 しかし、敷金返還請求権については、再生手続開始後に賃借人が賃料の支払いを継続すれば、賃料の6ヶ月分に相当する金額の範囲内で敷金返還請求権は共益債権として取り扱われるとして(民事再生法92条3項、会社更生法48条3項)、敷金返還請求権が再生(更生)債権であることを前提に、敷金の保護が図られています。