1 はじめに

 大阪高裁の更新料無効判決は、実務でも大きな影響を与えているようで、ここ東京でも更新料の有効性に関する相談が増えていきました。
 そこで、家主さんたちのために、更新料を有効化するためのスキームを考えたいと思います。
 でも、あくまでもこれは、今後、賃借人からとる更新料を有効なものとするためのスキームであって、既に取ってしまった更新料を有効にするためのスキームではないことを予めご了承ください。

2 大阪高裁の更新料無効判決(大阪高裁平成21年8月27日判決)

 更新料を有効化するためのスキームを構築するに当たっては、その前提として、まず大阪高裁がどのような論法で無効にしたのかを正確に理解する必要があります。
 そこで、大阪高裁が無効の理由としてあげているポイントを整理したいと思います。

(1)本件更新料が更新拒絶権放棄、賃借権強化の対価とは言えない。
(2)本件更新料が賃料を補充するものとは言えない。
(3)本件更新料の約定は、賃借人の義務を加重する特約である。
(4)契約締結時及び更新時に更新制度の説明が賃借人にされていない。
(5)一見低い月額賃料を明示して賃借人を誘引する効果があり、情報収集力の乏しい賃借人から借地借家法の強行規定の存在から目を逸らせる役割を果たしている。

 これらの事情を考慮して、大阪高裁は、本件更新料は消費者契約法10条に違反するとして無効としたわけです。

 さて、これをよく読むと、如何なる更新料も有効とする余地がないのかというと、そうとも言えないというのが私の率直な感想です。つまり、有効な更新料も十分ありうると思います。

 大阪高裁の問題意識は、「法律的には容易に説明することが困難」だという点に集約できると思います。
 そもそも、借地借家法上は、賃借権は強く保護され、正当事由がなければ原則更新なんです。なので、更新拒絶権の放棄、賃借権の強化の対価jでは説明になっていない…。

 また、賃料の補充という点も、本件ではむしろ裏目に出ています。本件の場合、確かに月額賃料は相場よりも低く設定されているようです。裁判所も、「一見低い賃料」と認定しています。しかし、この賃貸借契約では月額賃料が4万5000円と安い割に、更新料は10万円で、しかも賃貸期間がたった1年間なので、毎年更新のたびに10万円支払わないといけない。普通、賃貸期間って2年くらいが多いですよね。
 そうすると、10万円の更新料を12ヶ月で割ると約8333円になりますが、これを月額賃料に載せると、4万5000円+8333円=5万3333円になります。実質は、賃料が約18%高くなります。
 この点を悪く解釈すると、月額賃料で安く見せかけておいて、更新料名目で実質それなりの賃料を取っているではないかとも言えます。裁判所も「一見低い月額賃料を明示して賃借人を誘引」していると評価しています。

 このような裁判所の指摘を踏まえた上で、翻って考えると、

(1)更新料の根拠が合理的で、賃借人に一方的な不利益を課すものではなく、
(2)契約締結時及び更新時に更新料の制度趣旨をしっかり説明していれば、

更新料を無効にする必要はなくなります。

(1)について

 賃借権の強化とか、更新拒絶権放棄の対価という理屈では、おそらく合理性を説明することは困難だと思われます。
 更新料の合理性の根拠は他に求めなければならないでしょう。
 賃料の補充というのであれば、月額の賃料が相場よりも低めに設定しておく必要があります。また、更新後、中途解約して退去した場合は更新料の一部を返却する旨の精算条項を契約に盛り込んでおくのがよいと思います。賃料の補充であるならば、退去後の残存期間については、更新料をとるべきではないからです。更新料の算定方法も、月額いくらで算定するのがよいでしょう。

 では、賃料の補充以外に更新料の合理性を説明する方法はないのでしょうか。
 私は、賃貸物件の損害発生の有無および修繕の必要性の確認のための臨検の機会を放棄することの対価という考え方が使えるのではないかと考えています。
 そもそも更新されて同じ人が賃貸物件の使用を継続するということは、貸主にとってどのようなデメリットがあるのかを考える必要があります。
 もし、更新されずに賃借人が退去した場合、当然、貸主としては、物件に立ち入って損害が生じていないかチェックします。もし、損害が生じていれば敷金から控除しますよね。物件に破損が生じていれば速やかに修理もしたいはずです。
 でも、更新されてしまうと、貸主さんはこの機会を事実上失います。物件に損害が生じていても、賃借人の責任で生じた損害であれば申告してこない可能性も十分ありますよね。賃借人は、自分が所有する不動産ではないので、大事に扱わないと思うんです。でも、更新されちゃうと、物件に破損が生じていてもチェックしたり修繕する機会も失います。
 これは、貸主にとって大きな損害だと思われますので、この機会を放棄することの対価として受領することには一定の合理性があると思うんです。
 ただし、これはあくまでも私の個人的見解です。まだ裁判で誰も主張していないし、裁判例もありません。でも、貸主側の主張の法律構成のひとつとして使ってみてもいいかと思います。

(2)について

 これまで更新料という名目の金銭のやりとりが何となく商慣習としてまかり通っていたため、契約書には更新料の趣旨について説明してあるものはありません。
 でも、更新料の合理的説明ができるのであれば、契約書中に記載したほうがいいと思います。
 そして、さらに、契約書とは別に更新料についての「重要事項説明書」も作成し、賃貸借契約時と更新時において読み聞かせ、賃借人から署名押印をとっておくのがよいと思います。