だんだんと暖かくなってきましたが、花粉も飛び出して目がしばしばして来た今日この頃です。
 前回までは労働安全衛生法(以下、「労安法」といいます。)がどのような人に、どのような場面で適用されるかという点を中心に見てきました。今回は事業者に対する規制にはどのようなものがあるかを見ていきたいと思います。

 まず、労安法第3条1項によりますと、①労働災害の防止のための最低基準を守ること、②快適な職場環境の実現、③労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保すること、④国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力することが挙げられています。①については当然のことですが、②は単に基準を作るだけではなく、積極的に快適な職場環境を作っていくことを要求しています。さらに、③では、労働条件まで改善して労働者の安全と健康の確保を要求するとともに、④では、国の施策にまで協力することを要求しています。なお、これらは事業者に対する一般的規制ですが、労安法3条2項及び3項では、特殊業種の事業者に対する規制も定められていますので、ご参照ください。

 以下では、事業者に対する規制を具体的に見ていきたいと思います。

 以前にも若干説明した内容でもありますが、復習も兼ねて、安全衛生管理体制の最低基準についてみていきます。労働災害を防止し、快適な作業環境を維持向上させるためには安全衛生管理体制を整備する必要があります。ただ、安全管理体制は、事業場の規模によっても、業種等によっても異なってくるものと思われます。たとえば、危険有害業務がなく、使用する労働者も少ないところでは、形式張った安全管理者や衛生管理者を置くのは合理的ではなく、そこの責任者が直接管理すれば足ります。他方、危険有害業務のない単なる事務所でも、多数(労安法の定めでは50人以上)の労働者が働いていれば、産業医や衛生管理者の程度の衛生専門家は必要です。このように、労働安全衛生管理体制は、常時使用する労働者の人数規模と業種等によって異なってきます。

 具体的な衛生管理体制ですが、まず、①常時100人以上の労働者を使用している建設業など屋外作業的業種、②常時300人以上を使用している製造業、通信業、電気・ガス・熱供給業、商品卸売・小売業などの業種、③その他の業種で常時1000人以上を使用している事業においては、事業場における安全衛生の最高責任者として「統括安全衛生管理者」を選任しなければなりません(労安法10条、同令2条)。また、事業者は、①、②の業種であって常時50人以上を使用する事業場においては、最高責任者を補佐して安全の技術的事項を担当する安全生管理者を設置しなければならず、業種の如何を問わず、常時50人以上使用する事業場においては、最高責任者を補佐して衛生の技術的事項を担当する衛生管理者を設置しなければなりません(労安法11条、12条、同令4条、5条)。安全管理者の資格としては理系の一定学歴と産業安全実務経験等が要求され、衛生管理者についてはその免許を取ることまたは医師等の資格が必要とされています(労安則5条、10条)。そして、常時10人以上50人未満の労働者の使用する事業場においては安全衛生の実務家として、安全衛生推進者ないしは衛生推進者の選出が必要とされています(労安法12条の2、同則12条の2、12条の3)。

 また、常時50人以上の労働者を使用する事業場につき健康管理のための産業医の選任が必要であり(労安法13条、同令5条、同則13条)、また、労働者50人未満の事業場については医師等に労働者の健康管理の全部または一部を行わせるように努めなければなりません(労安法13条の2)。

 このほか、建設業など屋外作業的業種または製造業などの工業的業種に属する常時50人以上または100人以上の労働者を使用する事業場においては、安全に関する事項を審議する機関としての安全委員会の設置が、また業種の如何を問わず常時50人以上の労働者を使用する事業場においては衛生委員会の設置が義務付けられています。

 以上が安全衛生管理体制の概要です。みなさんの会社でも安全管理体制が法律に適った形で設置されているか確認してみてください。

弁護士 松木隆佳