前回、労災事件における法的手続きには、①労災保険金の請求と②使用者に対する損害賠償請求の2つがあるとお話しました。
 今回は、このうちの①労災保険金の請求について、もう少しお話したいと思います。

 労災保険法にいう「労働者」とは、名称や雇用形態にかかわらず、労働の対償として賃金を受けるすべての人が対象となるとされています。そして、労働者性の判定については、労務提供の形態、報酬の労務対償性やこれに関連する諸要素を総合的に考慮して、会社との間に使用従属関係があるかどうかが判断されることになります。

 以下、具体的なケースを見てみます。

① 法人の役員について

 会社と取締役の関係は一般に委任の関係にあるとされており、使用従属関係とは異なるので、労災保険法上の労働者には当たらず、労災保険の対象とならないことが多いと考えられます。
 ただし、会社の取締役であっても代表権を持たない者が、代表取締役などの指揮監督を受けて働き、対償として賃金の支払いを受けているような場合には、使用従属関係が認められ、労働者として扱われることもあります。

② 事業主と同居している親族

 親族以外の一般労働者を使用している事業であって、業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であり、かつ、就労の実態(始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇等、賃金の計算・支払方法等)が一般労働者と同様で、賃金もそれに応じて支払われているような場合には、例外的に労働者として扱われ、労災保険の対象となりえます。

③ 出向労働者

 出向労働者に関する保険関係が出向元と出向先のいずれにあるかは、出向の目的、形態、出向契約の内容、出向先における労働の実態等に即して判断することになりますが、一般的に、出向労働者が出向先事業組織に組み入れられ、出向先の指揮監督を受けて労働している場合には、出向先に保険関係を含む労働関係があると判断されると考えられます。

④ 派遣労働者

 労働契約家計は派遣元の事業についてのみ成立しているため、労災保険関係も派遣下において成立します。