最近はだんだん暖かくなって来ましたね。
 さて、今回も前回に引き続いて労働安全衛生法について見ていきたいと思います。前回は、労安法の適用範囲と目的の話のみで終わってしまいましたので、今回はその続きから説明していきたいと思います。

 ところで、「安全」と「衛生」という言葉をなんとなく使っていますが、これらの用語については、法律にも規定がなければ、通達で定義を示されたこともありません。

 ただし、労働基準局が編著した本には、「物又は環境による疾病の発生が必然性をもっている場合は『有害』であるといい、この有害性を軽減し、又は除去することによって疾病の防止等を図ることが『衛生』であると考えられる。一方、負傷又は疾病の発生が蓋然性を持っている場合は、『危険』といい、これらの蓋然性を軽減し、又は除去することが『安全』の分野であると考えられる。」と記載されています。

 また、この言葉の区別が問題になる場面の一例としては、安全管理者と衛生管理者の責任の範囲や安全委員会と衛生委員会の審議範囲の問題です。安全委員会の審議範囲には「労働者の危険を防止するための基本となるべき対策に関すること」が含まれ(17条1項1号)、衛生委員会の審議範囲には「労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること」が含まれます(18条1項1号)。

 これらを総合して簡単にいうと、「安全」とは、労働者が就業に関連した異常な出来事によって身体又は健康を害されるなど、ある程度の蓋然性をもって発生するかもしれない危険(災害)を防止することであり、「衛生」とは、労働者が就業上接する物質や設備環境の常態などによって必ず発生する健康障害(災害)を防止することをいうものと考えられます。

 次に、労安法の適用を受ける「事業者」については前回説明しましたが、具体的には「事業場」ごとに安全衛生管理体制を整備していかなければなりません。

 事業場の解釈については通達があります(昭和47年9月18日発基91号)。すなわち、「一の事業場であるか否かは主として場所的観念(同一の場所か離れた場所かということ)によって決定すべきであり、同一の場所にあるものは原則として一の事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場」とされます。

 しかし、これを単純に適用しては、1つの場所における労働者が極端に少ない場合には安全衛生に関する管理者を置くのも大変であるし、実益もありません。そこで、「規模が著しく小さく、組織的関連、事務能力等を勘案して一の事業場という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業場として扱うものとすること」ができることになっています。たとえば、現場事務所のない建設現場は直近の上位機構に一括して扱われます(昭和63年9月16日発基601号の2)。

 他方、「同一の場所にあっても、著しく労働の態様を異にする部門がある場合には、その部門を主たる部門と切り離して別個の事業場として捉えることによりこの法律(注:労働安全衛生法)がより適切に運用できる場合には、その部門は別個の事業場としてとらえるもの」とされています。この点は業種区分に密接な関連性がありますので、次回以降に業種について説明したいと思います。

 なお、労安法では「事業場」の他に「作業場」という言葉も出てきます(101条1項など)。「作業場」とは、簡単に言えば、作業を行う場所ですが、「事業場内において密接な関連の下に作業の行われる個々の現場をいい、主として建物別等によって判断すべき」ものとされています(昭和23年4月5日基発535号)。

 補足ですが、事業場の規模によって安全衛生管理者や産業医等をおかなければならないことになっていますので、労働安全衛生規則4条以下をご確認ください。特に衛生管理者については7条1項4号に表で記載されています。

弁護士 松木隆佳