今回は、賃料等の不払いにより、賃貸人が賃貸借契約を解除し、賃借人に明け渡しを求めた事例で最高裁判決が出されたものについて、そのご紹介と解説・分析をしたいと思います。
【最高裁判所昭和37年3月29日判決】
本件の事案は、大要以下のようです。
本件土地を所有者していたAは、昭和13年8月8日、その所有する本件土地をB(借地人)に賃貸し(「本件賃貸借契約」)ました。Yは昭和21年5月14日、Aの承諾を得てBから本件土地を転借して同土地上に本件建物を建築しました。Bが昭和29年6月1日以降の賃料を支払わなかったため、Aは昭和30年7月1日にBに到達した書面をもって、同到達後3日以内に同年5月末日までの遅延賃料8820円を支払うよう催告するとともに、その支払いがないときは本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしましたが、借地人Bは未払賃料等の支払いをしませんでした。土地所有者であったAは同年7月17日死亡し、Xらが本件土地を相続した。Yは、借地人Bに対して行われた催告の期間経過後2ヶ月足らずのうちにこの催告を知り、Bが遅延していた賃料を供託しました。
XらはYに対し、本件建物の収去(本件建物を取り壊して更地にすること)による本件土地の明け渡しを請求しました。
この事例では、土地の借地人であるBが遅延していた賃料を、転借人であるYらが支払っているため、立退請求が行われた時点では地代の遅延は解消されていたという事情がありました。そこで、賃貸借契約の解除に先立って必要な要件である「(賃料を支払うようにと促す)催告」を、借地人Bのみならず転借人に対しても行わなければならないか(すなわち、転借人にも借地料を支払う機会を与えなければならないか)が争点となりました。
判決は、事実審において、AとBの間の本件賃貸借契約が、借地人であったBの賃料の延滞を理由として、昭和30年7月4日に解除されたことを認定し、かかる場合には、賃貸人は借地人(この場合はB)に対して(解除の要件として必要な)催告をすれば足り、転借人に対して(賃料を支払うよう)催告を行う必要はない、としました。
この判例によれば、土地の実際の利用者が、土地所有者→借地人→転借人と移動している場合には、土地所有者としては、仮に借地料の不払いがあった場合には、借地人のみに賃料支払いの催告をすれば足りるとしています。土地所有者としては、転借人に対して催告を行わなくても解除の効力が認められる(明け渡し請求ができる)ことになりますので、ひと手間省けることとなりますから、この判決の結論は歓迎すべきことでしょう。
ただ、土地を現実に利用しているのは転借人ですので、よほど転借人に恨みなどがないかぎり、まずは転借人に、話し合いで立ち退いてもらうようにもちかけるのが得策かと思われます(判決をとっても、任意の立ち退きが行われなければ(裁判上の和解が成立せず判決に至った場合、任意の履行が期待できない可能性が相当程度ある)、強制執行を余儀なくされ、余計な手間がかかり、また、執行する側(土地所有者側)がさらに恨みないしマイナスイメージを持たれる可能性があるからです。
弁護士 吉村亮子