第1 はじめに
前回は、主に、債権回収にあたって注意しておく事項に関する問題を述べました。今回は、もっと進んで、実際に債権回収をまさにしようという場面で問題となることについてお話ししていきます。
第2 中途半端な回収
債権者は債権回収をするのにも、1回だけで済めばそれに越したことはありません。しかし、債務者が一気に全額を支払ってくれるとは限りません。その債務者に対して、複数の債権を持っている場合など、特にどれから払ってくれるんだ?この債権から支払うと言われたがそれに従う必要はあるのか?といった問題が生じます。
1 元本と利息と費用
一つの債権の中に、元本請求権の他、利息請求権や何らか必要となった費用請求権が含まれていた場合で、債務者が債権全額に満たない額を弁済してきたとき、1)費用債権、2)利息債権、3)元本債権の順に弁済されていくことになります。
これは民法491条1項に規定されています。
2 複数債権の充当指定
一人の債務者に対し、複数の債権が存在する場合、債務者が合計債権額に満たない弁済をしてきた場合、まず、指定できる権限があるのは債務者です。すなわち、債務者は、弁済時にどの債権に充当するかを決めることができます(民法488条1項)。
次に、債務者の指定がないときは、債権者が受領時にどの債権に充当させるかを決めることができます(同条2項本文)。
もっとも、この指定は、債務者から直ちに異議が出ると指定自体が無効になるという弱いものです(同ただし書)。この場合は、次にお話しする法律で定められた充当方法によることになります(489条)。
3 法定充当
一人の債務者に対し、複数の債権が存在する場合で、債務者が合計債権額に満たない弁済をし、かつ充当指定もしてこないときや、上述したように、債権者が充当指定したが債務者から直ちに異議が出たときには、次のようになります。
まず、弁済期が来ている債権と来ていない債権があれば、前者から充当されます(民法489条1号)。
次に、全債権が弁済期に来ているか、又は全債権が弁済期前であれば、債務者にとって利益の多い債権から順に充当されます(同条2号)。債務者にとって利益かは、利率等から客観的に決定されるものであり、債務者の意思に基づくものではありません。
さらに、上述のように、「債務者の利益」が客観的に決められるものである以上、複数債権で差がないということも充分起こりえます。その場合、全債権が弁済期に来ているものであるときは弁済期が先に来たものから充当され、全債権が弁済期前のときは弁済期が先に来るものから充当されます(同条3号)。
最後に、上記いずれによっても決まらなければ、各債権額に応じて按分充当されます(同条4号)。
第3 準消費貸借契約
一人の債務者に対し、種々の代金債権や貸金債権等があり、それらを一本化して、一つの消費貸借契約を構成し直す場合があります。これは準消費貸借契約と呼ばれます(民法588条)。
この場合、準消費貸借契約前の債権が前回紹介したような短期消滅時効にかかる代金債権であったときでも、準消費貸借契約後は、通常の時効期間となります。また、利息制限法の適用があり、遅延損害金の制限も課されます(利息制限法1条1項、4条1項)。
なお、準消費貸借契約を締結したからといって、前の借用証、契約書類を破棄したり、債務者に返してしまったりしないようにしてください。準消費貸借契約上の債務が争われれば、旧債務の立証が必要となる場合があるからです。
第4 代物弁済
債権回収がままならなければ代わりのものでも回収しようとするのはよくあることでしょう。これを代物弁済と呼びます(民法482条)。
そして、この代物弁済を事前に予約しておく代物弁済の予約がなされることがあります。ただ、この事前に行う代物弁済予約は、弱みにつけ込む貸金業者が貸金額より相当過大な目的物に予約契約を設定することがしばしば行われ問題となりました。
そこで、代物弁済予約が暴利行為と認められれば、その予約契約自体が公序良俗違反として無効(民法90条)とされ、そこまで行かない場合でも、きちんと清算した上で、元利や処分費用を差し引いた残金は債務者や後順位担保権者に返還すべしとの判例理論が確立したのです(最大判昭和42年2月16日)。