前回に引き続き、特に裁判例上、賃貸借契約を終了させるに足る「信頼関係破壊」がないとされた事例とその内容について、分析してみたいと思います。

(1) 最高裁平成21年11月27日判決

 本判決の事例は、やや複雑ですが、おおよそ以下のようです。

 被上告人(以下「賃貸人」といいます)は、Y1に対して土地を賃貸していました(この土地の賃貸借契約には、Yiが本件土地上の建物を他に譲渡するときは、あらかじめ賃貸人の承諾を受けなければならない旨の特約がありました。)。Y1はこの土地の上に建物(以下「旧建物」という)を建築し、そこに居住して畳製造販売業を営んできました。

 Y1は、賃貸借契約に基づいて、妻であるY2及び子であるCとともに居住し、旧建物を本店所在地として、上告人株式会社Y4を設立し、その代表取締役に就任し、引き続き旧建物において畳販売業を営んできましたが、昭和62年ころ子CがY3と婚姻し、同年CとY3との間にDが出生し、上告人Y3及びDも旧建物に居住するようになりました。(本件土地及びその上の旧建物には、都合3世代の家族が居住するようになったわけです)

 Cと上告人Y2は、平成9年頃、旧建物の立替に反対していた上告人Y1の了解を得ずに、賃貸人との間で、立替後の持ち分をY1及びCにつき各2分の1とすることを前提として、建物の建て替えの承諾条件に付き交渉を行いました。賃貸人は、Cとの間で、旧建物の建て替え及び本件土地の転貸の承諾料を400万円とすることを合意しました。(ただし、Y2及びCの事後判断で、実際に建て替えてできた建物(本件建物)の共有名義は、Cが持ち分10分の7、上告人Y2が10分の3となったが、この事情は賃貸人には説明されていない)

 上告人Y1は、最終的に、C及び上告人Y2が本件建物を建築し、上記持分割合でこれを共有することを容認し、これにより本件土地が上告人Y1からC及び上告人Y2に転貸されることになりました(以下この転貸を「第1転貸」という)。

 Cは、平成17年2月、上告人Y3との離婚の届け出をし、財産分与として本件建物の持ち分10分の7を上告人Y3に譲渡した。この財産分与に伴い、本件土地の敷地である本件土地につきCが有していた持ち分10分の7の転借権も上告に人Y3に移転した。上告人Y1は、上記財産分与が行われたことを容認し、これにより本件土地が上告人Y1から上告人Y3に転貸されることになった(この転貸を「第2転貸」という)。

 賃貸人は、平成17年6月17日ころ、本件建物の登記事項証明書をとりよせて、①本件建物について当初からY1(もともとの賃借人)は持ち分を有しないこと、②Cが破産手続き開始の決定を受けたことにより、本件建物のCの持ち分は同年2月22日財産分与を原因として上告人Y3へ移転した旨の登記がなされていることを知り、同年8月28日、上告人Y1に対し、同月末日をもって本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしました。

 なお、Y1は、旧建物を建て替えた後、本件賃貸借契約に基づく賃料の支払いを遅滞したことはありません。

 賃貸人は、訴訟に至った際には、第2転貸に加えて第1転貸も賃貸人に無断でなされたとして、解除の原因として主張しました。

 この事案において、最高裁判所は、下級審の判断を覆して、「信頼関係が破壊されたと認めるに足りない特段の事情」が認められる(つまり、賃貸人からの賃貸借契約解除・明渡請求は認められない)との判断をしました。

 この最高裁判例の結論にいたる事情としては、第1転貸・第2転貸がともに家族の間でなされたものであり、建物の利用状況自体に変更はないということが重視されたようです。

(2) 東京地裁平成21年2月16日判決

 本判決の事案は、かなり複雑ですので、その判示するところを簡略に述べると、概要以下のようです。

 原告(賃貸人)が、被告Y1との間の土地賃貸借契約を、Y1の借地権の無断譲渡により解除したとして、同土地上に建物を有するY1に対し、建物収去、土地明け渡しを、建物に居住する被告Y2に対し、賃料相当損害金の支払いを求めた事案について、被告Y1が、本件建物を元妻であった亡Aに贈与したとの自白の撤回は認められないとした上で、本件贈与は、土地賃貸人である原告との関係では、背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとして、賃貸借契約解除の効力を否定し請求を棄却したというものです。

 この事案の場合も、(1)で示した最高裁判例と同様、転貸借などが家族間で行われており、実質上は利用状況に変化がないという事情を考慮して、賃貸借契約を解除するだけの背信行為と認めるにたりない特別な事情があるとしました。

 以上のとおり、裁判例の傾向のひとつとして、転貸借が無断でなされたとしても、その転貸借が家族間で行われたものであり、不動産の利用状況に変化がない場合には、この転貸借を理由とした信頼関係破壊・建物明渡し請求は認められないというものがあろうかと思います。

 賃貸人としては、このような場合に明け渡しを可能とするために、「たとえ家族間であっても、転貸借等が行われる場合には、賃貸人の承諾を得る」旨を賃貸借契約書に定めることも考えられます。上記(1)の最高裁判決を持ち出されて反論される可能性はありますが、明示的に契約書に定められている場合には上記(1)の裁判例とは異なる事例だという主張が出来るかと思います。これから長らく(何世代にもわたって)土地を賃貸する予定の方は、上記裁判例をふまえて契約書の文言を検討してみるのも良いでしょう。

 一定の期間は土地(又は建物)を賃貸したいが、それ以降は確実に返してほしいという場合には、定期借地権という定めが有効です。よくご検討になることをお勧めします。

弁護士 吉村亮子