不動産を賃貸中に、賃借人が賃料を滞納している場合、賃貸人としては、どのようにすればスムーズに賃料の支払いを確保できるでしょうか。

 家賃を滞納している賃借人が、滞納分を一括で支払う資力がある場合、あるいは、そのような資力のある連帯保証人をつけている場合は、滞納家賃の全額について支払請求訴訟を提起し、本人あるいは連帯保証人の財産に強制執行を行うという手段も、あるにはあります。

 ただ、現実問題としては、仮に一括の支払いを命じる判決が確定したとしても、これを一括で払える賃借人はまれでしょうし(そのような資力があれば、そもそも賃料の滞納などしないと思われます)、仮に連帯保証人がついていたとしても、その財産の詳細を調査するのに時間や費用がかかる上、回収容易な資産が見つけられないという可能性もあるので、「あくまで一括での支払いを求める判決・強制執行等」は、必ずしも確実な手段とまではいいきれません。

 では、分割で支払うことを認める場合、新たにどのような取り決めをすればよいでしょうか。

 もちろん、賃貸借契約が有効な間は、それに伴い賃料の支払義務が生じていますから、賃貸借契約に加えて新たな取り決めを「しなければならない」ものではありません。しかし、遅延した分の賃料について遅延損害金を請求したいなどの場合には、滞納している家賃について、新たな取り決めをすることが有効です。

 民法においては、実際に貸付金を交付していない場合でも、金銭を支払う義務を負う者(この場合、賃料を滞納している賃借人)が、債権者(賃貸人)に対し、滞納賃料を消費貸借契約の目的とすることを合意した場合には、滞納賃料相当額を目的とした消費貸借契約が成立したものとされ、このような合意を「準金銭消費貸借」といいます。

 この「準金銭消費貸借契約」をする実際的な意義としては、①本来は一括して支払うべき滞納賃料の弁済期を、新たに変更できること(合意後の分割払いとするなど)、②時効期間は、従前の債務についてではなく、新たに成立させた準消費貸借契約の成立時から進行すると解されること(時効にかかる期間が先に伸びるため、時効にかかりづらくなる)、などがあります。

 では、上記のような「準消費貸借契約」を締結したにもかかわらず、賃借人が約定どおり滞納賃料を支払わない場合は、どうしたらよいのでしょうか。

 実は、このようなときのために、賃貸人・賃借人の間で締結された準消費貸借契約を、公正証書という文書にしておくことが考えられます。公正証書は、当事者双方(この場合は賃貸人・賃借人)が公証役場に出頭して本人確認を行った上で作成され、これには通常、債務を履行しなかった場合には直ちに強制執行に服する旨の陳述(「強制執行認諾文言」)を付しますので、この文言により、不履行があった場合は、訴訟などの手続きをとることなく、直ちに強制執行をすることが出来ます。(ただし、この強制執行認諾は、金銭債権の強制執行の認諾にとどまり、賃料不払いなどを理由として建物明け渡しなどを請求するためには、別途訴訟を提起することが必要です)

 したがって、滞納賃料の支払いを確実にするためには、滞納賃料について新たな支払期日を定めた準消費貸借契約を締結し、これを公正証書としておくのが有効と思われます。