平成22年1月25日、広島高等裁判所において、現行選挙区における「1票の格差」が憲法上許容できない限度に至っているとして、現行の選挙区割りで行われた平成21年8月の衆議院議員選挙は「違憲」と判断した判決が下されました。
この「1票の格差」とは、特に選挙区内の有権者数が多い地域と少ない地域を比較して、「1票の価値」にどれだけの差がついているかを測定するものです。
地方から都市部への人口の流入などにともない、立法当初に割り当てた選挙区によれば選挙区間の一票の価値に格差が増大しているにも関わらずそれが放置されている現状に、本判決は警鐘をならすものといえるでしょう。同じ趣旨の判決は、昨年末に大阪高裁でも出されており、(少なくとも、選挙区間で2倍以上の)一票の格差を容認しないという論調は、裁判所の中での共通認識としては高まっていると思われます。
本来であれば、立法府である国会が、上記のような判決の動向をふまえて、「1票の格差」を解消するための立法を一日も早く行うべきでしょう。
ただ、現在開会中の通常国会においては、通常の予算・法案審議のほか、政治資金疑惑が噂される民主党・小沢幹事長の国会招致・追及などが大きな話題とされており、上記の「1票の格差」が真剣に議論される気配はあまりありません。
そもそも、選挙区の改正は、既存の政治家の利害に直結する問題なので、政治家による改革が困難な問題です。過去にも、6倍を超える格差が違憲状態にあるという判決が出た際も、その是正に何年もかかったという経緯もありました。
選挙区に対する議席の割り当ては、単純に当該選挙区の有権者数のみを基準として決めるというわけではありませんから、裁判例によっても、選挙区間で最大2倍までの格差はやむを得ないものとされていることが多いようです。
ただし、2倍を超える格差については、選挙の有効性に疑問が生じるものとして、理論的には選挙自体が無効にされる場合もあり得ます。(ただし、選挙自体が無効とすると、選挙をやり直さなければならないので、混乱が大きすぎるものとして、第二次世界大戦後において「選挙自体の無効」が裁判所で宣言されたことはありません)
現在の政治日程を前提とする限り、早期に選挙区の見直しが行われる可能性は低いですが、あまりにこの問題が放置されることがあると、今度は「立法の不作為」による違憲確認訴訟が提訴される余地もありますので、なるべく速やかな選挙区の見直しを求めたいところです。