1.そもそも論

 2009年11月23日付日経新聞朝刊15面に掲載されている「エコノ入門塾」で、事業再生ADRが取り上げられていました。

 同紙の記事をそのまま引用すると、「ADRを使った再建に向いているのは急速に資金繰りが悪化して業績が低迷しているけれども、借金返済の負担を減らせば十分、立ち直る企業」とありました。

 この定義は、ある意味正しいです。「借金の負担を減らせば十分、立ち直る企業」とあり、事業再生ADRで借金の負担を減らすわけですから、この定義に当てはまる企業であれば、立ち直るのは当然です。
 問題は、そんな企業がそもそもどのくらいあるのかという点です。

2.借金が減れば再建は可能?

 借金が減れば再建可能な企業の典型は、損益計算書上、営業損益は黒字であるのに、経常損益が赤字の会社です。なぜならば、経常損益が赤字の場合、そのほとんどの原因は有利子負債、すなわち金融機関からの借入だからです。営業利益は出ているわけですから、有利子負債さえ何とか整理できれば、経常損益も黒字化できるわけです。

 しかし、ちょっと待ってください。
 そもそも、営業損益で黒字となった金額は、金融機関への有利子負債の返済原資になります。したがって、金融機関は、その融資先企業の営業利益の範囲内で返済可能な金額を貸し付けるはずです。経常赤字になってしまう、すなわち、営業活動で稼いだお金で返済できない金額を貸すはずがありません。

 では、なぜ営業黒字、経常赤字なんて自体が発生するのでしょうか。
 それは、貸付当時、有利子負債を十分カバーできるほどの営業黒字だったのが、経営不振で営業利益が減り、有利子負債をカバーできなくなったためです。当初から返済不能な金額を貸し付ける金融機関なんてありませんから。会社が粉飾していれば別ですけど。

 したがって、このような会社では、本業である営業に何らかの問題を抱えている場合が多いのです。つまり、根本原因は、有利子負債ではなく、営業不振です。借金の負担が軽減されても、営業自体が不振なので、時間の問題で営業損益も赤字に転じる会社が珍しくありません。

 そして、事業再生ADRでは、この根本問題である営業活動の改善にメスを入れることができません。そもそも、そのようなことができる専門家の集まりではないからです。金融機関と借金の返済について交渉してくれるだけです。
 したがって、とりあえず癌を切除したけれども、数年後にまた再発なんて事態も十分起こりえます。民事再生の現場では、実際にそのようなことが起こっています。

3.対象企業の選別は適切か

 仮に、百歩譲って、借金の負担を減らせば再建可能な企業が事業再生ADRに適しているとしましょう。

 では、ほんとうにそのような企業が事業再生ADRの対象企業に選ばれているのでしょうか?

 例えば、今年の9月に事業再生ADRの申請がなされて受理されたアイフル。
 アイフルが経営破綻したのは、常識的に考えれば、有利子負債が原因ではなく、過払い請求です。過払いの返済に資金を充てなければならないため、融資にまわせない。融資にまわせないということは、その分だけ本業である貸付業務をしていないことになります。貸付業務をしなければ、利息収入もありません。しかし、過払い請求がどんどん来る。ますます、貸付に資金をまわせなくなり、本業の収入が入ってこなくなる。まさに負のスパイラルです。このような経営環境の下で、有利子負債の軽減でアイフルが再建できるという物語には、私は懐疑的です。

 では、この11月にADRを利用することが決まった日本航空はどうでしょうか?
 日本航空は、借金の負担が軽減されれば十分立ち直る企業なのでしょうか。そうではないでしょう。公的資金、すなわち、国民の税金を投入するのですから。借金の負担軽減で再建できるのなら、税金を使うのはやめて欲しいですよね。
 しかも、報道によれば、日本航空は、再建のために大規模なリストラを敢行する必要がありそうです。膨大な人件費は、営業損益を悪化させる科目です。有利子負債の問題ではありませんよ。日本航空は、人件費の削減も含め、大胆な経営改革を行わなければ再建できない企業だと思います。
 したがって、事業再生ADRに適したケースとは思えないのですが、みなさんいかがでしょうか?